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日々雑思 よろず書き

昼から風が強まる。湖面をウサギがはねるように白波が立ち、沖に進むボートの船首を叩いている。

ずいぶんと長くかかってしまったが、今日、裁判所の判決がおりた。全面勝訴。カフェの仇はうった。グアテマラの司法判断も捨てたものではない。3度検察の事情聴取に呼び出され、いずれも被告が来なかったため諦めかけていたところだった。先日、裁判所より出頭命令があり、今日の判決へと至った。これまで助けてくれたコンセプシオン、セシリアに感謝しなくてはならない。以前の飼い主にも報告ができた。被告は言い訳と泣き言を言っていたが全て突っぱねられて万事休す。胸のすく思いとなった。

この村でできた友人がアメリカに向かったと聞く。まだ二十歳の彼は借金が返せず逃げた。ずっと欲しがっていたiPhonを銀行に借金して買った。たかだか8万にも満たない額を返すことができなかった。それが理由。アメリカに行くためには15万ほど使って不法入国を手配する。コヨーテと呼ばれる組織を利用しなければならない。その金ももちろん借金となる。彼は5年は帰ってこないであろう。英語もできない彼がこれからおくるであろう苦労を思うと複雑な気持ちとなった。女中のセシーもまたアメリカへ行きたいと言う。国境では行方不明になってしまう者、変わり果てた姿で見つかる者が後を絶たない。この村にはチャンスは多くない。そこで一生を暮らさせるのもかわいそうな気がする。さりとて危険を犯してまでアメリカへ向かうことにも同意しかねる。彼らはこの村に戻ってきた者たちのいい話しか聞こうとしない。それが尚更に哀れを誘って仕方がない。

  

またもやインターネット屋に逃げられる。ほとほと信用のない連中なのだ。日本人が海外で信頼されるのはこうしたことに真面目に取り組むからなのであろう。それにしても村の男の大半がどうしようもない。酒に溺れ、女を殴り、ダラダラとしてばかりなのに腐ったプライドにしがみつくように暮らしていてなにも感じる事がない。こうした者と一緒にならねばならない村の女も気の毒だ。それでもまじめに働く者はいて、この差はいったいどこから生まれるのかと考えてしまう。

すこし前に書いたのだけど出す前に彼女はいなくなってしまったがついでなので。

最近、女中のセシーが気持ち悪くて仕方がない。妙に素直でなにか企んでいるのではないかと心配になる。

「今日はなにが食べたい」「なんでも~、んー私が作る」「そうか、それなら任せるよ」一人でさっさと冷蔵庫を覗き考えている「ヒデーキこのメロンは使っていいか」「あー使え」「私はメロンが大好きだ」「そうか、それはよかったな」「ヒデキはなにが1番好きなのだ」「果物はみな、虫の食べ物だ」「はっ?虫か!メロンは種類がある、私はツルツルのが好きだ。日本にもメロンはあるのか」「あーある高い」「いくらだ」「忘れた、好きなだけ使え」なにやらクレープを作っていてメロンを巻いている。「このコンデンスミルクを使いたい缶を開けてくれ」缶切りがないので包丁で開ける。「気をつけろヒデーキ」「大丈夫だ心配ない、ほれ、どのくらいかけるのだ」「ここにかけろ、あーそれでいいそれでいい」

席に座る「もっとキレイに作りたかったのに見てくれが悪い」「美味そうだ」「どうだ?」「美味いよ」「そうか、私はいいシェフか」「まぁまぁだ、いや上手になった」「ひひひ」「ふふふ」「今日はソロラに行く。教師の募集がある」「おー行け行け、チャンスは逃すな、俺は他の女中を探しに行く」「まだダメだ、なれるかわからない」「第1オマエまだ卒業してないだろ」「それだ、でも聞いてみる」「そうだな金貯めろ」「それが問題だ」「オマエソロラに行く金あるのか?」「んーお母さんに借りる」「あ”っ!この前やっただろ」「もうない」「あ"あ”!na nab’antre ja ra poq’?(なんに使うんだ)」思わずツトゥヒル語で聞いてしまう。「nala(知らなーい)」「オマエなー、仕方ない待ってろ、お母さんに金を借りるな」「コレは私の給料か?くれるのか?」「オマエ次第だ、釣りは返せよな」「グラーシアス ヒデーキ」「今月はよく働いているからだ」「私はいい女中だろ」「当たり前の女中だ」一事が万事この調子だ。食事の後もしばらく残っていろいろな話をしてから帰るようになった。犬のタチもよく懐いている。ホッと一息つける束の間の朝の時間はいい。娘のようでもあり、良き先生でもある、油断のならない強敵でもある。はやく学校に戻り卒業させてやりたいとも思う。2人で始めたスペイン語のレッスンは好評で多少のインセンティブが入るのでもう少し頑張ってみるか。娘を持つ父親はこのように感じるのであろうか。

このところ急に全てのことがいい方向へと動いている。セシリアの夢が叶い、友人のグアテマラ再派遣が決まり、別の友人はカナダでの職が決まりそうだ。宿に来るものに恵まれ来年の再会を約束した。自分はここにいて動かないのに、周りは皆新たな道を見つけ去っていく。それは一抹の寂しさを感じさせるものではあるけれど、嬉しいことでもある。強い風が全てを運び去ってしまった。いつか僕もまた風にさらってもらえるのであろうか。宿も例年通りの落ち着きとなり、ちょうどいいのでメキシコへと所用で行くこととした。

日々雑思 おめでとうセシー

朝、暗いうちに起き出す。犬を庭に放し3階へと上がる。タライにつけ置いたシーツを丁寧に、セシリアに教わった通りに洗う。トイレを掃除し、廊下を掃く。すり減った箒を見て、新しい箒を用意してやればよかったと思う。来る者すべてがこの宿はキレイだと言った。それはセシリアによるものだ。モップをかけ終わるころ夜が明けた。下に降り朝食の支度をする。扉を開け、時計を見ると7:15であった。セシリアはもう来ることはないのにと苦笑してしまう。犬も玄関に座って彼女が来るのを待っている「もう、セシーは来ないぞ」と声をかけると勘違いをして門の方に行ってしまった。ゴミ屋の鐘の音が聞こえ、思わずセシーと呼びそうになる。ドーラがセシーはと聞いてくる。彼女はやめたもう来ないと伝えた。

久しぶりに味わう渾身の充実感。一つの夢を叶えることが出来た。旅に出るとき決めた目的の一つであった社会貢献。たった一人ではあるけれど、4年の月日を費やしてしまった。この地で稼ぎ、その金で夢を叶える。無理だと何度も思った。しかし、その時は唐突に訪れた。宿に村役場から人が来てセシリアはいるかと言う。彼女は訳もわからず役場へと向かった。夜、セシリアが来た。「あなたにとって悪いニュースだ」「なんだ言ってみろ」「私は働けない」「どうした?」「学校の先生になれる、でも私はここが心配だ。ここで働きたい」「なに!それはいいニュースではないか。おめでとう」「でも、ヒデキは困るであろう。私はヒデキも心配だ」言ってポロリと涙している。「セシー、夢が叶うのだ、それはオレにとってもとても嬉しい。心配などするな。先生になれ、いつからだ」「明日だ」また急な話だと思ったがそれはとても良い知らせであることは間違いない。「ヒデキは私のことを友達ではないと言うが私はとても良い友達だと思っている。ヒデキはいつも私を助けてくれた。私はヒデキを助けたい」「お前は友達ではない、とても良い心根を持った女中だ。だが、お前は今日をもってクビだ。ここに居てはいけない。せっかく掴んだ夢を離してはいけない」「でも」とポロポロと泣いている。やはりこの娘を選んで良かった。応援した甲斐があったと嬉しくなった。「これからも友達だなビデキ」「考えておく、ツライ事があるかもしれないが、オレは疑いなどこれほどもない。お前は立派な先生になるよ。でももし、助けが必要な時にはここに来い。全力で助けてやるわ」「グラシアスヒデキ」「たまには遊びに来い、頑張れよセシー」

生意気な小娘の夢が叶った。自分のことのように嬉しい。と同時にさみしさと喪失感もあった。ここまで苦楽を共に頑張ってきた相棒がまた去っていくこととなった。少し気が抜けてしまった。この国でやるべき事がなくなった気がした。

気持ちの整理がつくのは、もう少し経ってからであろうか、新しい女中を雇うか、一人でやっていくか迷う。宿はまた振り出しに戻ってしまった。でもそれは新しい試みへのスタートなのだと言い聞かせる。去年の暮れからこの宿は変わった。驚くほど客の満足度が高くなった。自分のやりたい事が明確になり安定した。それが客にも伝わっているかのよう感じていた。セシーもよく働き、楽しそうだった。それが、唐突に終わった。これでいいのだ。時が熟し始めたのかもしれない。kamomosi の新しい試みはいったいどのようなものになるのかはまだわからない。でも、きっと僕を楽しませてくれる事だけはわかっている。

さらばセシー。おめでとう。僕は君をとても誇りに思っているよ。そして君はこの旅で出会った最高の友達だ。そして誰よりも君の成功を信じているよ。