日別アーカイブ: 2019/09/19

日々雑思 釣りに行く

夕方まで宿の片付けがかかってしまった。雨が降りだした。明日から3日宿を休んで釣りに行くと決めているにもかかわらず、はやる気持ちを抑えきれなくなってしまった。僕はリールに糸を巻き、釣りに出かけた。湖に向かう足取りが勝手にはやくなっている。湖畔に向かう小径に入ったらもう心が弾んで仕方がない。

日本から到着した釣り具。丁寧に梱包された数々の道具。これまでの思いがいっぺんに溢れて目頭が熱くなる。日本の親友の晋作くんが送ってくれた。ここでスペイン語を学んだアツシさんが運んでくれた。彼との出会いはもう30年以上も前になる。僕は大学生、彼は高校生だった。数えきれない程僕らは一緒に釣りに行った。マス、アユ、バス、メバル、イカありとあらゆる釣りにハマり、同じ師匠に付き、釣り以外にも僕らは沢山遊んだ。

旅に出るとき僕は少しの釣り具を持ってきたが、あちらで無くし、こちらで壊して、持っている釣り具はここでの釣りには少し足りなかった。宿が暇となり、僕はどうしても釣りがしたくなった。彼に頼むと快く引き受けてくれた。そして届いた道具。彼の優しさが身にしみた。僕の必要としている物が全て入っていた。何年も会っていないのにまるで昨日まで一緒に釣りを楽しんでいたかのように彼はわかってくれていたんだと思うと、目の前にある釣り具が滲んでユラついた。

湖畔に立つ。はやる心を抑えて糸を結ぶ。結ぶ時ナイロンが熱で弱らないように口で舐めてあげる。老眼で見えなくても手が覚えている。すべての動作がまるで昨日まで釣りをして来たかのように自然に出来た。投げては巻き投げては巻きを繰り返すうちに僕は湖畔に立つ一本の老木となった。周りから一切の音が消えた。心にある傷が癒え、真っさらとなっていく。投げるたびにデジャブを繰り返し、僕は少しずつ過去へ戻っていくような感覚を覚えた。

雨に濡れていることも忘れた。気がつくと辺りは真っ暗になっていた。ほんの少しのつもりだったのに、時間はあっという間に過ぎていた。残念ながら魚は釣れなかったけど、僕は束の間を心ゆくまで楽しんだ。

中国のことわざに

1日幸せになりたければ酒を飲みなさい

3日幸せになりたければ結婚しなさい

7日幸せになりたければ豚を殺して食べなさい

一生幸せになりたければ釣りを覚えなさい

とある。けだし名言。酒も女も豚も幸せににはなったけれど苦痛も伴った。でも釣りだけはその苦痛すら僕を幸せにしてくれた。宿を始めて酒をやめた。女は面倒。豚より牛が美味しい。僕は一生の幸せを手に入れた。

遠い日本で道具を集めてくれた親友に感謝の気持ちのみ。晋作君ありがとう。そして重たい道具をわざわざグアテマラまで運んでくれたアツシさんありがとうございます。

晋作くんといつかまた世界のどこかで一緒に釣りをする事を願って。アティトラン湖畔にて。

フレッドアーボガストの奇跡

ジッターバグというルアーがあって、他にはない形をしている。頭というか口に平べったい板が付いていて引っ張るとまるでクロールをするように泳いでくれる。このルアーの歴史は古く、第一次のルアーブームのときからずっとある古参の逸品。初めて使ったのは僕が高校生の頃。夏の夕暮れ、神奈川の津久井湖、通称津久井観光と言われる場所。沖に投げたこのルアーにブラックバスが食いついた。はじめてのランカーサイズを手にした僕は全身が震えた。夜の河口湖、丸栄前で100匹釣りに挑戦していた。残念ながら94匹に終わってしまったけど、その時に使っていたのがこのルアー。あまりに噛み付かれてルアーの色が剥げてしまった。それは僕の宝物となった。多摩川のナマズの時もこのルアーが活躍してくれた。そうこのルアーは僕にのとっておきのひとつ。最終兵器とも言える程幾多の場面で一発大逆転をもたらしてくれた思い出の逸品。奇跡を起こすお気に入り。

このルアーは隣国のエルサルバドルで生産されていた。まさかグアテマラでこのルアーを手にするとは思いもしなかった。友人から届いた荷を開くと真っ先に僕の目に飛び込んできた。懐かしさが溢れた。さすがわかっていると改めて友人に感謝した。このルアー、果たしてこの湖で活躍してくれるであろうか。まるで新しいオモチャを買ってもらった子供のようにウキウキとした気分になった。

潮吹きゲーリーヤマモト

ワームというゴムで出来たミミズのようなルアー。その中で異色の働きを見せたワームがある。このワーム、アメリカ生まれ。ゲーリーヤマモトというおっさんが作った。通称ゲリヤマ、名前もひどいが他と違うのは味付きだったこと。ドッサリと詰まった塩の粒はひとたび魚の口に入ると吹き出して血の味となり、飲み込まずにはいられないという代物。異色のこのワームをはじめて見たとき、友人がこれって潮吹きだろと言ってそこにいる全員が一瞬凍りつき、大爆笑となったいわく付き。その効果は絶大でこれ無くしては釣りがなりたたない程のお気に入りとなった。千葉の亀山ダム、あまりの釣れなさに嫌気がさしはじめた時、何気なく放り投げたこのルアーが炸裂した。さっきまでの釣れなさはなんだったのだと思う程、釣れまくった。冬の北浦、このワームを2袋だけ持って底冷えのする朝に湖上に出船した。果たして午前中で持ってきたすべてのワームがなくなってしまう程の爆釣であった。このワームの唯一の欠点は柔らかすぎること。1匹、もっても数匹釣ったら千切れてしまうため消耗が激しく財布に痛かったこと。千切れたワームをライターであぶって溶かし、くっつけて使ったのは良き思い出。このルアーを教えてくれたのもまた今回届けてくれた友人であった。

釣りに関してはあまりに書きたい事がありすぎて書ききれない。いま手元にある道具すべてを書いていたら一冊の本になってしまうだろう。それほど釣りには思い出が詰まっている。小学校の時に父に連れて行ってもらった多摩川での釣りはその後の僕の人生に大きな影響を与えた。これまで釣りのない人生など考えたこともないし、ありえないことだった。旅に出て失ってしまった釣り具がまた僕のもとに戻ってきた。人生を取り戻した。僕はグアテマラで再び少年の心を拾った。