日別アーカイブ: 2018/04/10

日々雑思 季節が変わり始めて

雨季

夕方から雲行きが怪しくなる。裏山の火山に雲が垂れ込めゴロゴロと雷が鳴り出す。カフェを散歩に連れて行く。今日は少し長い散歩をしてやろうと決めていた。客がどっと去って夕食の支度に手間がかからないから。

村の中心へ向かう。売店に寄りパンを買う12ケツアル。20ケツアルを出すとレジの娘に2ケツアルはあるかと聞かれる。「ナイいつもゴメン今度は用意する」といい8ケツアルを受け取る。いつもいる白人が幸運をと言ってきた。どうしたのだと聞くと明日、カナダへ帰ると言う。お前もなと答えて店を出た。ここに住む外国人は自国とこの国を行ったり来たりしながら暮らしている者が多い。いよいよ雨季がやってくるのだ。だから彼らは自国で悠々と温かな日々を送るつもりなのだ。

坂を下る。カフェはいつも行くフライドチキン屋に行きたくて坂の上でこちらを見てなんでそっちに行くのだ、まだ食べておらんであろうがと恨めしそうにこちらを見ているが、こちらがしゃがんで手を出すと笑ったような顔になりストトとかけってやってくる。そのまま湖に出て湖畔を歩いて行く。カフェは前に歩き、時々こちらを振り返りながら嬉しそうに歩いている。途中、お気に入りのドブに行こうとしたがNOというと素直に従った。
友人の新しく出来たホテルの前を通り過ぎ、岬を越えたところで雨が降り出す。洗濯をしていたおばさんがブラジャー一丁で頭に洗濯物を乗せるのを手伝ってくれというのでカゴを持ち上げた。おばさんが両の手を挙げた拍子にブラジャーがゆるみボロンとどデカイのがこぼれた。どははははと豪快に笑うおばさん。カゴのやり場がなくなり目だけがおばさんのそこに釘付けとなった。

雨がひどくなり湖畔のあばら屋に駆け込む。身体を洗いにきていた家族がいる。「どこから来たのだ」「日本からだ」「どの位ここにいるのだ」「2年だ」「これらかもいるのか」「わからない多分そうだ」「ここは穏やかだからな」「あぁグアテマラシテイとは全然違う」「そうだここは違う、ここが好きか」「まだ分からない、好きなところもあるし嫌いなところも沢山ある」「何が嫌いなのだ」「人だ、お前らの文化はわからない」

沖でボートに乗った漁師の若者が鳥を追いかけている。立ち上がりオールを器用にさばきながら追いかけるが、鳥は捕まらない程度に飛んでは若者をからかっているように見える。見ていた家族づれも笑い出した。もう少しのところで水の中にトプンと潜り少し先に出る。若者は急ぎそこに行くがまた潜られてしまう。若者の後ろの方にポッカリと浮き上がると、そのまま飛んで行ってしまったが若者は気がつかない。家族づれが行ってしまったと教えてやる。

雨が小止みとなったので戻ることにする。元来た道を行くと先程とは違った少し若い女が濡れて透けたシミーズのまま「そのパンはどこで買ったのだ」と聞いてくる。「村の真ん中だ」「くれ」「ダメだ」と言って立ち去る。いつもは砂だらけになる足も今日は雨で湿ってしまっていて歩きやすい。服が湿ってしまったので肌寒い。それでも傘をささずともなんともなくなっている事に気がついて、随分と変わるものだと思った。2年前は気になっていたのに。

宿に戻り食事の支度を始める。カフェがご飯をくれと足元に来る。濡れ犬の匂いがして「お前くさいぞ」とい言うと訳もわからずはしゃぎだした。長い散歩に満足したのだきっと。

もうすぐ雨季がやって来る。夕方になると決まって雨と雷がやってきてすべてを洗い流してくれる。暑さも、ゴミも、犬のフンもみんな下に流れて行って、時々停電して真っ暗闇に包まれるのだ。僕はそれが嫌いではない。

スセリー

新しい女中さんとなったスセリー。15歳。僕にとって特別な存在の娘。まるで自分の子供のようにかわいい。彼女との出会いはこの村に来た最初の日。彼女はこの村で出来たはじめての友達。

姉のセシーの代わりに働きだした。なかなかまじめにやっている。まだおっかなびっくりで猫をかぶってはいるけれど、毎日彼女がやって来るのが楽しみの一つとなってしまった。
姉のセシーに比べればすべてが劣るけれども、嬉々として働く彼女の成長が何より嬉しい。コップを割り、出しっ放し、間違える、忘れると今のところいいとこ無しではある。掃除は仕事、その後に2人の朝食を作らせる。包丁の使い方から調味料の分量まで僕がやって見せる。あとはほったらかし。食べる段となり彼女は心配そうにこちらを見ている。黙っていると我慢できずに、ちょっと怖いと言う。どうしてと聞くと私のはまずいだろと言う。何が悪いのだと聞くとわからないと答える。「恐れなくてもいい、失敗しながら覚えていけばよい、お前の姉は鼻は良かったが舌はバカだった。お前はどうかな」と言うとニッコリ笑って食べだした。

パンを焼いている時、火傷をしたらしく、ゆびの付け根を口にくわえている。「どうした火傷か」「なんでもない、ただくわえただけだ」指を見ると赤くなっている。クスリを持ってきて塗ってやる。こちらの”痛いの痛いの飛んでいけ”を歌いながらクスリつけてやると一緒になって歌い出す。

包丁を取るときにコップに手をひっかけて割ってしまう。割れたコップを慌てて取ろうとしたので手を止める。ごめんなさいと何回も言う。「コップはまた買えばよろし、でもお前の手は買えないのだ、気にするな」自分で言って自分で驚く。こんな事を言うとは随分と焼きが回ったのだ。ほかの女中には言わない。依怙贔屓と言われれば、そうだと答えるだろう。そうスセリーはやはり特別なのだ。仕事が終わってから1時間ほどスペイン語を習う。毎日のリーディングのために夜遅くまで練習するのは彼女をガッカリさせたくないのだ。

15歳の小娘に一喜一憂する毎日はくすぐったくもあり、楽しみでもあるのは歳をとった証拠なのであろう。もともと活発な娘ではあるので、そのうちこっぴどくやられてしまうことも承知。それもまた楽しみなのだから。願わくばスセリーにはいつまでも半人前であってほしいものだ。