カテゴリー別アーカイブ: Casa de kamomosi

日々雑思 居候、飯炊男、遠足にて

居候

レオが来て泊めてくれと言う。金がないんだが、その分手伝うからなんでも言ってくれと言う。
友人であり、家庭教師でもあり、演奏家でもあるが金がない。レオは生まれも育ちもよく教養もあるしグアテマラ人らしさがない。ただ金が稼げないので生きて行くのに難儀している。「何も言わなくともよい、泊まれ」それだけ言うとレオはモジモジしている。「飯か?」「それは大丈夫だ、考えなくていいのか?」「考える必要もない。泊まれ、いつからだ」「今日、あとで来る、ありがとう」

後でレオがやって来る。「掃除は自分でやれ、1週間に一度は必ずやれ、シーツも自分で変えろ、あとは好きにやれ」と伝えておしまい。レオはきょとりとしている。空いている部屋を貸してやり、ここにいる間に仕事を見つけ出ていけばよろし、人助けというほどのことはできないが、友人がくれば飯の一つも食わせてやりたいと常々思ってるのだ。

最近のこの宿はまるでテレビの安ドラマの舞台にでもなったかのようにいろいろあって、自分がてんてこ舞いになりながらもなんとかなっていく主人公にでもなったような気分。一度歯車が狂うと何もかもがうまくいかないように思えるけれど、実はそれが楽しかったりもするのだ。後で考えればそうなのだきっと。客もなく途方に暮れかけると1人やって来て、覚悟を決めると2人やって来る。役立たずの居候が1人くらいいても何も変わらないのだ。朝、スセリーが来る。「この男はお前の手下だ、好きに使ってよろし」と言うとレオは苦笑いし、スセリーは少し戸惑った顔をしている。いつものように、なにも変わらずに掃除を始めた。

飯炊男

客が「ここのメシは美味い、レストランをやれ」とほめる。このメシならもっと高くてもいいと言いつつ他のホテルへ引っ越して行く。メシだけ食べに来るがいいかと聞かれ、ダメとも言えず「よい」と答えると、さっさと出て行ってしまった。

客が「スペイン語をここで勉強するのはどうか」と言う。「アンティグア、シェラが安い。そちらでやればいいであろう」安いの一言でそれ以上は聞かないのでこちらもそれ以上は何も言わない。
学校をやめた先生が来て家庭教師をはじめるが場所を貸してくれと言う。空き部屋ばかりでも仕方がないので一階は貸しスペースへと変更することにした。部屋は3部屋となる。

噂で「あそこの3階は雰囲気が悪く行きにくいと皆が言っている」と聞く。何が悪いのかとんとわからない。泊まっている客に聞いてもわからないと言う。誰もいないのが不気味なのか、エレベーターがないので行きにくいのかと考えるが、わかりもしないのできっとそうなのだろう、今の人には合わないなにかがあるのだろうと諦めた。

宿の持ち主が惨状を聞きつけ、心配でやって来た。さぞ散らかしているのだろう、どうしようもない事をしでかしているのであろうと思って来たのだ。一通り様子を伺い、近所で聞き込んで帰って行った。部屋の鍵をまたもや持っていかれてしまう。なぜか皆部屋の鍵を持って行ってしまうので常に交換をしなければならない。なぜ持っていかれてしまうのであろうか。
それにしても客が来ないのは不徳の致すところ、さぞ人様に忌み嫌われる性格なのであろう。宿は人一倍キレイなのだから、原因は自分の心の汚れだ。

スペイン語だけははかどる。いつも勉強出来るので随分と良くなった気がする。本が読めるようになり。歌が歌えるようになった3曲を練習して2曲歌えるようになった。スセリーが教えてくれるのでとても楽しい。客に文法の事を聞かれ、嫌々説明すると「わかりやすい。ここで勉強がしたくなった、お前はやらないのか」と言われるが文法のことは日本語で説明しているのであって、スペイン語は一切喋っていないのだ。「お前の日本語はなかなかのものだ」とふた回りも違う若者に褒められる。まだ日本語は忘れず、人様に褒めていただけるだけましだと思うことにする。

遠足にて

パロポと言う遠い対岸の村へ行く。スセリーに同行してもらう。彼女も初めてだと言う。いつもとは違い洋服を来てやってきた。
パロポについてお土産屋の髪留めが気になっている様子だが小さいと言う。「お姉ちゃんは持っているが私には絶対に貸してくれない、とっても自分勝手だ」とボソリ。それではそれを探そうと村の中をくまなく回るがどれも小さいので、「パナハチェルで買おうか」と言うとコクリと頷いた。村は青に塗られ、大きなホテルもあり、思っていたよりはツーリスティクであったけれどスセリーとの小旅行だったのでそれは楽しかった。パナハチェルに戻り、髪留め、サンダル、シャンプーを買う。シャンプーは「テレビでやっていたものだ、ハチミツが入っていてきっとキレイになるのだ」としっかりとした目で説明をするので哀れとなり買う。カバンにシャンプーを入れると「お姉ちゃんはアボガドを塗っているのだ」と言う。8歳も歳が離れているのに対抗心を燃やしているのが微笑ましい。髪留めは茶色を選んだ、サイズも大きい、値段を聞いて「高い!」と文句を言っている。値切って20ケツアレスを15ケツアレスにする。すぐに髪に留めて使い出す。「もうお姉さんの事を悪く言ってはいけない」とさとすと素直にうなづいた。帰りがけにサンダルが目に付き、キラキラとした目で床にしゃがみ込んであれやこれやと手にとって履いている。「コレは底が天然ゴムだから丈夫でいいのだ。長く使えるのがいいものだ」と言う。「この焦げ茶はとてもよい」と言って幾らだと他の客を店員と間違えて聞いている。あっちのオジさんが店員だと言われ恥ずかしそうにしている。値段を聞いてうなだれる。かわいそうになり再び値段交渉。200ケツアレスを150ケツアレスにする。そこで「この値段は妥当かサンペドロでならいくらだ」とそっと聞くと「サンペドロなら250だ」と言うので「それならば買え」と言って金を渡してやった。お土産を入れたバックを機嫌良さそうに背負い、船着場へ向かう。こっちだと自信を持って反対方向へ行くのでついていく。「同級生と来た時は確かにこっちだった、でもわからなくなってしまった」と照れた笑いを浮かべ困惑している。迷子になり困っているところへスセリーに交際してくれと言っている男の子に気がつき僕の陰に隠れている。「とっても嫌なのに困る」とくっつくので、父親になったような気持ちになって元来た道をボート乗り場へ向かった。

日々雑思 季節が変わり始めて

雨季

夕方から雲行きが怪しくなる。裏山の火山に雲が垂れ込めゴロゴロと雷が鳴り出す。カフェを散歩に連れて行く。今日は少し長い散歩をしてやろうと決めていた。客がどっと去って夕食の支度に手間がかからないから。

村の中心へ向かう。売店に寄りパンを買う12ケツアル。20ケツアルを出すとレジの娘に2ケツアルはあるかと聞かれる。「ナイいつもゴメン今度は用意する」といい8ケツアルを受け取る。いつもいる白人が幸運をと言ってきた。どうしたのだと聞くと明日、カナダへ帰ると言う。お前もなと答えて店を出た。ここに住む外国人は自国とこの国を行ったり来たりしながら暮らしている者が多い。いよいよ雨季がやってくるのだ。だから彼らは自国で悠々と温かな日々を送るつもりなのだ。

坂を下る。カフェはいつも行くフライドチキン屋に行きたくて坂の上でこちらを見てなんでそっちに行くのだ、まだ食べておらんであろうがと恨めしそうにこちらを見ているが、こちらがしゃがんで手を出すと笑ったような顔になりストトとかけってやってくる。そのまま湖に出て湖畔を歩いて行く。カフェは前に歩き、時々こちらを振り返りながら嬉しそうに歩いている。途中、お気に入りのドブに行こうとしたがNOというと素直に従った。
友人の新しく出来たホテルの前を通り過ぎ、岬を越えたところで雨が降り出す。洗濯をしていたおばさんがブラジャー一丁で頭に洗濯物を乗せるのを手伝ってくれというのでカゴを持ち上げた。おばさんが両の手を挙げた拍子にブラジャーがゆるみボロンとどデカイのがこぼれた。どははははと豪快に笑うおばさん。カゴのやり場がなくなり目だけがおばさんのそこに釘付けとなった。

雨がひどくなり湖畔のあばら屋に駆け込む。身体を洗いにきていた家族がいる。「どこから来たのだ」「日本からだ」「どの位ここにいるのだ」「2年だ」「これらかもいるのか」「わからない多分そうだ」「ここは穏やかだからな」「あぁグアテマラシテイとは全然違う」「そうだここは違う、ここが好きか」「まだ分からない、好きなところもあるし嫌いなところも沢山ある」「何が嫌いなのだ」「人だ、お前らの文化はわからない」

沖でボートに乗った漁師の若者が鳥を追いかけている。立ち上がりオールを器用にさばきながら追いかけるが、鳥は捕まらない程度に飛んでは若者をからかっているように見える。見ていた家族づれも笑い出した。もう少しのところで水の中にトプンと潜り少し先に出る。若者は急ぎそこに行くがまた潜られてしまう。若者の後ろの方にポッカリと浮き上がると、そのまま飛んで行ってしまったが若者は気がつかない。家族づれが行ってしまったと教えてやる。

雨が小止みとなったので戻ることにする。元来た道を行くと先程とは違った少し若い女が濡れて透けたシミーズのまま「そのパンはどこで買ったのだ」と聞いてくる。「村の真ん中だ」「くれ」「ダメだ」と言って立ち去る。いつもは砂だらけになる足も今日は雨で湿ってしまっていて歩きやすい。服が湿ってしまったので肌寒い。それでも傘をささずともなんともなくなっている事に気がついて、随分と変わるものだと思った。2年前は気になっていたのに。

宿に戻り食事の支度を始める。カフェがご飯をくれと足元に来る。濡れ犬の匂いがして「お前くさいぞ」とい言うと訳もわからずはしゃぎだした。長い散歩に満足したのだきっと。

もうすぐ雨季がやって来る。夕方になると決まって雨と雷がやってきてすべてを洗い流してくれる。暑さも、ゴミも、犬のフンもみんな下に流れて行って、時々停電して真っ暗闇に包まれるのだ。僕はそれが嫌いではない。

スセリー

新しい女中さんとなったスセリー。15歳。僕にとって特別な存在の娘。まるで自分の子供のようにかわいい。彼女との出会いはこの村に来た最初の日。彼女はこの村で出来たはじめての友達。

姉のセシーの代わりに働きだした。なかなかまじめにやっている。まだおっかなびっくりで猫をかぶってはいるけれど、毎日彼女がやって来るのが楽しみの一つとなってしまった。
姉のセシーに比べればすべてが劣るけれども、嬉々として働く彼女の成長が何より嬉しい。コップを割り、出しっ放し、間違える、忘れると今のところいいとこ無しではある。掃除は仕事、その後に2人の朝食を作らせる。包丁の使い方から調味料の分量まで僕がやって見せる。あとはほったらかし。食べる段となり彼女は心配そうにこちらを見ている。黙っていると我慢できずに、ちょっと怖いと言う。どうしてと聞くと私のはまずいだろと言う。何が悪いのだと聞くとわからないと答える。「恐れなくてもいい、失敗しながら覚えていけばよい、お前の姉は鼻は良かったが舌はバカだった。お前はどうかな」と言うとニッコリ笑って食べだした。

パンを焼いている時、火傷をしたらしく、ゆびの付け根を口にくわえている。「どうした火傷か」「なんでもない、ただくわえただけだ」指を見ると赤くなっている。クスリを持ってきて塗ってやる。こちらの”痛いの痛いの飛んでいけ”を歌いながらクスリつけてやると一緒になって歌い出す。

包丁を取るときにコップに手をひっかけて割ってしまう。割れたコップを慌てて取ろうとしたので手を止める。ごめんなさいと何回も言う。「コップはまた買えばよろし、でもお前の手は買えないのだ、気にするな」自分で言って自分で驚く。こんな事を言うとは随分と焼きが回ったのだ。ほかの女中には言わない。依怙贔屓と言われれば、そうだと答えるだろう。そうスセリーはやはり特別なのだ。仕事が終わってから1時間ほどスペイン語を習う。毎日のリーディングのために夜遅くまで練習するのは彼女をガッカリさせたくないのだ。

15歳の小娘に一喜一憂する毎日はくすぐったくもあり、楽しみでもあるのは歳をとった証拠なのであろう。もともと活発な娘ではあるので、そのうちこっぴどくやられてしまうことも承知。それもまた楽しみなのだから。願わくばスセリーにはいつまでも半人前であってほしいものだ。

日々雑思 久し振りの更新だけれど

久し振りの更新、パソコンに向かうも書くことなし。しばらくパソコンに向かっていると雀が屋根と壁の隙間から入って来てこちらをじっと見ている。この部屋は天上に隙間があって夜は寒いがこうした客がやって来るのでいい。

少し前に引越しをした。1階のまともな部屋から追い出されてテント生活やハンモック生活を経て2階にあるトタン屋根の部屋に落ち着く。この部屋は以前は客室であったけれど、申し訳ない気がししていたので、これを機会に引っ越した。これで客室は7室となる。

今年は去年とは違い、まったく客が寄り付かなかったのでこのままでは首をくくるか、追いはぎにでも転職しなければならないと考えていた。道の工事やら山賊のうわさ話があったと聞くが、きっとこの宿が飽きられてしまったのだ、高すぎるのだと言われ客が来なくなったのだと思い悩む。

それでも、やる事はやっておかねばと庭を作り、台所の壁をぬり、タイルを貼った。風呂場に小物置を設置してシャワーの湯温を調整しなおす。Wi-Fiのルーターを2階に移した。珈琲を自家焙煎にして、カカオからチヨコレイトをつくり、イチゴ大福をデザートにくわえた。

ポツリポツリとやって来る客は、直ぐに宿を変え、出て言ってしまう。偶に根性のひん曲がったババァがきて高飛車にものを言い管理人をトイレに閉じこめ、好き邦題言うので追い出してしまった。とうとう客は0となり、3月は宿を締めて何処かへ出掛けようと決めた。

たまに来る客にも宿を閉めるらしいと出先で言っておいてくれと頼み、問合せのメールにもここには来ないほうがいい、ツマラナイからヤメテオケと返信をするのだけれど、こちらが死なない程度にやってくるものだから、だらりだらりと宿を開けておく。

この間、ずいぶんといろいろなことがあって書きたいことがあるのだけれど事が事だけに書くことができない。ツマラナイ男とめんどくさい女の話、宗教にとち狂う女の話はいつか書いてやろうと思う。

庭と部屋の改装をしようと大工のミゲルに問い合わせる。すぐにやって来てサッと見わたして値段を言う。法外な金額に驚き、また今度にすると答える。最近、ミゲルのぼったくりは酷いので、他の大工に聞くと、それがミゲルの耳に入る事となり、フェイスブックで不幸をと書き込まれてしまった。道でミゲルに会う。なぜあの様な事を書いたのだと問い正す。「アレはこのあたりの挨拶だ、お前こそなぜ他の大工に聞いたのだ」としらじらしく言うので「こちらはお前達の文化を尊重しているが、お前達はまったく此方を理解しようとしないのだな、値段を聞くのは当たり前の事であろう」と答えると「むこうは幾らと言ったのだ」と言うので「お前には関係の無い話だ」と無碍に答える。ブツブツと言っているので「おまえには技術がない、卓を作らせても満足な仕事をしていないだろう、高いだけで役に立たない卓を直したのは俺だ。お前に出来ないからほかに頼むのだ、だが今回は自分でやる事にしたからもういい」と言ってやった。ミゲルはサンパブロの男でサンペドロで仕事をするうちにズルくなって悪くなってしまったのだ。サンパブロは貧乏だからこうしたことになるのかも知れない。字もロクに書けない男なのに嫉妬心だけは一人前に持っているのだ。つまらないプライドばかりで中身の無い貧しい男、サンパブロのミゲル。
後日、ミゲルがやってきて、様子をうかがいに来た。庭を一目見て負け犬のような半笑いをして帰って行った。このところ材木や白砂を運び入れているところを何処からか聞き付けて気になっていたのだきっと。良い物をみたことが無いミゲルには到底できるはずもない庭を拵えてやったのですっきりとした。

蒲団を干そうとハシゴを昇っているときに折れて落ちてしまう。うんとこ痛かったがズボンが破れたことが血だらけになった膝より悲しかった。とうとう旅に出る時に用意した服はすべて穴が開いてしまい乞食にでもなったような気分となる。
こわれたハシゴは木が所々腐っていてこれ以上は使えないので新しい木材を買ってきて作りなおす。途中、古釘を踏んでしまい脚の裏にグサリと刺さった。夜になり、足が腫れて来たのでそうそうに休む。翌朝は更に腫れている。びっこを引かないようにゆっくりと歩いてメルカドへ行く。買物をしているとき、大きなおばさんに足を踏まれる。声にならないほど痛かった。足の裏にヌメリケを感じる。溜まってた膿が押し出されてぬるぬるとして気持ち悪い。湖へ行き足を洗った。カフェはハシャイで鳥を追いかけまわし嬉々として遊んでいるのでしばらく腰をおろして休む。ビシャビシャとなったカフェが戻ってきたのでいっしょに帰る。再び足を洗ってじっとしている。膿が出てしまったので腫れが引き随分とスッキリとなる。

日々雑思  Incendió

Incendió

トモさんと買い出し
ネジ4種、L字金具6本、ドリル
買い物をしていると男が入ってきて、電気をつけはなしているぞと店の女に言う。女は「ちょっと待っててください」と言って外に出て行った。少しして女が血相を変えて店の外で騒いでいる。どうしたのだと聞くと火事だ、たいへんだと目に涙を浮かべている。外に出てみると店の屋上から煙が立ち上り、辺りが焦げ臭い。近くの女に消防士はいないのかと聞くとこの村にはいないという。村の男衆が集まってきて手に手にバケツを持って建物の上に上がっていく。店の女にお前の家なのか早く戻れというと、隣の家だという。それでも悪いので買い物は後にするよと言うといいのいいの買ってちょうだいと言うので必要なものをそそくさと買って店をでた。

店の外は物見の者たちが通りに並んでる。事の成り行きを見ている。人が死んでいたと言うがみつからないらしいとか、どこの国でも流言蜚語は同じ物らしい。男衆が寄ってたかって水のタンクからバケツリレーであれよというまに消してしまった。辺りには焦げたにおいと道に流れてきた黒い水が溜まってるだけとなった。
帰り道、マリアと会う。今日は生徒が体調不良で休んだので出掛けてきたらしい。最近彼女はまたキレイになった気がする。恐らく新しい彼氏でも出来たのであろう。火事があったんだと言うと何処だと聞かれる。火事のあった場所をきちんと説明出来ないことに気がついてもっと単語を覚えなければいけないと反省する。

この村には消防署が無くて、いちばん近くても隣りの村からやってくるので時間も掛かるし、おそらく呼んでもなかなか来ないことは容易に想像がつく。一昨日から山火事がみえているが誰もがあわてた様子も無く、燃えるに任せている。後日、セシーにどうやっても消すのだと聞いても知らないと答えている。とってつけたように消火器で消すのではないかという。そう言えばこの村で消火器をみたことが無いことに気がついた。

トモさんがメキシコからフロートスイッチを買って来てくれた。取付けようとすると、電気がショートして家に引き込む電気線が焼き切れてしまった。この家のブレーカーは動作した事がなく、ブレーカーの役割をはたしていないのではないかしらと以前からいぶかしんでいたけれど、そのまま使ってきていた。ブレーカーのなかはガタガタしていてもしょっちゅう火花が散っているのでたまには停電となるけれど、それでもやっぱりブレーカーは切れた事がない。仕方がないので電器屋をよび直してもらう。電器屋の言うことにはこのブレーカーは取り換えなければダメだ、箱を買ってきて取り替えろと言うのでそれを頼んで後日交換してもらうことにした。
フロートスイッチの事を聞くとそれは使えない。もしつけたければ3つ必要だ。でもシステムを組むと高くなるが良いのかと言う。僕は週1回使えれば良いのだ。タンクに付けるのではなく、水瓶に付けてくれと頼むがそれはできないの一点張りとなる。あげく以前のオーナーにでっかい水瓶をつくれと言ったのにつけなかったからだと言い出したので、それは関係ないことだろうとウンと怒ったらいっしょに居たセシーまでぼくを攻めるので遣る瀬無くなってしまう。お金をかければいいではないかというセシーに僕はそんな金は無い。その金を簡単には稼げないことを知っているであろう。おまえに簡単に稼げるのかときつくあたってしまう。
セシーはふくれてしまった。

なにをするにしても幾ら払えるのだ、この仕事はたいへんだと言いつつ、何とか高く見積もろうとする彼らを見ているとほんとうに腹が立って来て仕方がない。一事が万事この調子なので最近は聞くことを辞めてしまった。テーブルを頼んでも約束の日にちになっても持ってくる気配すら無い。セシーが催促したのかと聞くので、「なぜ、そんな事をする必要があるのだ」と云うと「彼らはヒデキは催促しないので約束を守らなくても良いのだと考えるぞ、次からもっと遅れるぞ」と言うので「なぜグアテマラ人はそうなのだ、それでいいと思っている事が信じられない、守れない約束などしなければいいのだ。だいたい、それを神が許すのか、教会へ行って誤れば神父はそれでは構わないと言っているのか、聖書には神との約束だけ守れば良いとかいてあるのか」と聞くとちょっと困った顔になって「それがグアテマラの問題だと思う」とちょっと悲しそうに言う。続けて「きちんとやろうとみんなが言うけれど」と言ってちょっとどもっているので「いつからやるのか」と言うと「分からない」と言ったきりとなってしまったので「其の内に聞いておく」と言っておわりにした。セシーはグアテマラ人はと言われるのがちょっと悔しいのかも知れない。

新しい物差しを手にいれた件

久しぶりにたまげてしまった。何がきっかけでそれを知ったかは、あまりにも驚いてしまったので忘れてしまったけれど、彼女の説明はこうだった。

「神が私たちを作ったのよ、ヒデキ、猿じゃないわ」
「でも学校では…スペイン語でなんて言ったかなぁ、セシーDarwinを知っているだろ」
「誰、あっダルウィンのこと、もちろん。私たちが猿から進化したって言うあれのことでしょ、あんなのありえないわ、それとビックバンとかここの村では誰も信じていないわよ。学校では習うけど、先生だって「本当は違うけど」って授業のときに言っているわ」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!マジ?」
「だってどやったら、猿が人になるの、ありえないでしょ」

僕はあまりの衝撃に言葉が継げなかった。どう僕の常識を彼女に告げたものか、頭ごなしに否定など到底できっこなので、これは厄介だけれどもっと聞いてみたい、彼女の考えをどうしてももっと聞きたかった。僕はノートと鉛筆を用意する。何が厄介なのかというと進化論をスペイン語でどう説明すればいいのかわからなかったから。

「セシー、恐竜を知っているかい?」
「もちろんよ、あなたは神はいないって言うけどどうしてそう思うの、私に説明して見なさいほらほら」
「彼らが生きていた時代に人間はいたかい、それとも神が僕らを作ったのはそのあと?」
「知らない、でも全滅したんだから、そのあとでしょ」
「神が作ったのならなんで恐竜の時代に僕らはいなかったんだろう、まぁいいや。セシー、僕らも動物と一緒で、4本の手足があって、耳や目を持っているよね。他の犬や猿も似ているよね、虫は体が3つに別れているし、足も6本やたくさんあるから違う生き物だよね」
「……..]
「ガラパゴス島を知っている?」
「知らない、どこ」
「じゃぁいいや、太平洋の小さな島だけど知らないならいいよ、問題ない。オーケーそれじゃ、ここはアフリカ、ヨーロッパ、アメリカ、日本はここ、オーストラリア…」

僕は世界地図を書きながら大陸の絵を書いた。

「むかーし、むかし、僕らはここで生まれたと言われてるんだ。アウストラロピテクスという最初の人間」
「本当に!」
「なぜ、それがわかったかたというとね、あちこちの地面を掘って骨を探したんだ。見つかった骨を調べたらなん年前のものかがわかるからね」
僕は自分が知っている猿人の見つかった場所と年代を書いていく。彼女はちょっと驚きながら興味深そうに見ている。

「ヒデキ、どこで習ったの、全部覚えているのか」
「学校だよ、全部じゃないし、間違っているかもしれないでもね」

僕は世界地図に書き終えると矢印を書き込んだ。

「ほらね、人類は旅をしたんだ。ここからこう、こっちからもこう、そしてグアテマラにも」
「はーん」
「もし、神様が僕らを作ったとしたら全部おんなじ年代になると思うんだ。僕らは肌の色が違うだろ、ここは黒、ここは白、ここは茶色、ここは黄色、どうしてだろね、例えばここ、アフリカは黒だよね、どうしてだろ、白かったら真っ赤にやけて痛いでしょ、だから黒くなって気候に適応したんだよ、旅をして北にいくとその必要がなくなって白くなったんだ」
「本当に!、アメリカ白いわ、でも途中で日本は黄色いじゃない、あなたは黒いけど」
「うん、僕はもうグアテマラ人だからね、アメリカはイタリアやイギリスから100年くらい前に引っ越してきたんだ、アメリカにはインディオが先に住んでいたのだけれど、彼らは追い出されちゃったのさ、だから彼らは君たちと似ているでしょ、僕らは旅をしながら変わってきたんだ、気候によっていらないものを捨てて、必要なものを手に入れてきたんだよ。イグアナを知ってるだろ、ここのは陸にしかいないけど海に住んでいるイグアナもいるんだ。彼らはご飯を海に食べにいくことを選んだんだ、だから水かきがあったり、流されないように爪が伸びたりしてるんだ、それに最近は陸と海と両方いける奴が出てきたんだよ、それが進化論」

彼女はとても面白い話を聞いているように見えた。僕の言葉に素直に驚き、まるで初めての話を聞いているかのようだった。

「キリストっているじゃない」
「ヒデキはいたと思うのか、それともおとぎ話だと思うのか」
「いたと思うよ。35、6歳のガリガリに痩せて血だらけのキモいおっさんだよね」
「ノー、ぜんぜん違うわ」
「彼は”ナザレのイエス”と呼ばれていて、実在したと言われてるよ。彼が奇跡を起こしたかどうかは知らないけど、一旦、死んで7日後に」
「3日後よ」
「あーごめん、3日後に生き返ったんだろ、ゾンビだな」
「ノーヒデキ」
「君たちは聖書を持っているだろ、でも聖書にはもう一つ種類があってここにいる人たちが使っているんだ」

僕は世界地図のイスラエルを刺した。

「その本には人間が悪いことをしたから、神様が怒って洪水を起こして全てを滅ぼすんだ。でも神様に選ばれた動物と人間が船に乗せてもらって助かるんだよね」
「あ〜ん、#$%&’のことね」
「なんだって?もう一回、まぁいいや。昔、ローマ帝国で王さんに仕えていた家来がいて、ある日王さんから何か皆の衆をうまくコントロールできる方法はないものかと聞かれたんだ、家来は帝国を出てあちこちを探して回ったんだ。そして見つけたのがこの本”旧約聖書”だよ。彼はそれを持ち帰って王さんに「いいもんみっけました」と言ってその本を渡したんだ。王さんは「こりゃいいね、でも問題が一つあるじゃないか、助かるのはユダヤ人だけなのはいただけないなぁ、なんかいい考えないの」と言う。彼は「それじゃ、こうしませう。救世主伝説に書き直しちゃいましょう。ケンシロウとラオウ…おっと間違えました。最近イエスって奴がいるんですけど結構有名人でして、彼のこと使っちゃいますね、復活神降臨は受けますよ、はいコレ」と言って
新訳聖書を出したんだ。王さんはたいそう喜んで「これこれこれ、満足じゃ、褒美をくれてやろう、お前さんが死んだらバチカンに大きな墓を作ってあげよう、パウロ君」」

僕はセシーの顔色を見た。彼女は興味津々で話に食いついている。

「そして君たちが使っている聖書はできたんだ、マルティンルターっておっさんがラテン語で書かれた本をドイツ語に書き直してみんなが読めるようにしたんだけどバチカン怒っちゃってね、でもカトリックがイヤになっちゃったイギリスの王さんとかが作ったのが君たちのエバンヘリコ(プロテスタント)だよ。もちろん僕は君たちが宗教を持つことは尊重しているし、いいことだと思うよ、僕が話したのは歴史?、事実?本当のことはわからないけど、勉強ではこう言われてるよ。ここには二つのことがあるんだ。歴史や史実と宗教や人の信じる心のことなんだ。この二つは別のことだから、でもねセシー知識はとっても君の人生にとって大切なものだから、むやみに否定や拒否はしてはいけないんだ。この二つの話は別のものなんだ、一つはキミの脳みそに入れておけばいい、もう一つは君のコラソン(ハート)にしまっておくことなんだ」
「ふ〜ん…………………..」

彼女が納得したとは思ってもいなし、彼女の信じるものを壊してしまったかしらとちょっと心配になったけど彼女は何かを感じたように見えた。それでも彼女は神を信じているし、それはそれでいいのだ。神でもいなけりゃこの場所で一生を過ごすことなんて到底できないのだから。僕は信仰を持たないので、”神”と言うものがピンとこない。ただ、教会で毎日のように一心不乱に何かを唱えているのを見ていて、こうした単純作業が人の心に何かを植え付けるにはとってもいいのだと言うことはわかった。進化論を信じない人に出会ったことは僕にとってとっても大きな喜びだった。僕の旅はまた一つ新たな物差しを手に入れることができた。

日々雑思 ネコ 泳ぐ人

ネコ来る、ネコ去る

すっかり日が昇りきってしまった正午前、トモさんと買い物に出る。小道の真ん中で薄茶の丸い毛球がうずくまっている。犬が近づいても動かない。かなり弱っている様子でコレはダメだとすぐわかる。クビをひょいとつまんで土手の上に置いてやる。置かれたままの姿でまったくうんでもないし、すんでもない。そのままトモさんとメルカドへ向かう。
「ありゃダメだねトモさん。弱り切ってるよ。きっと昨日の夜、犬がやたらめったら吠えたてていたのはアレの所為だと思う」
「随分と鳴いてましたねー、アレがいたんですね、随分と弱ってましたね、きっと一晩中追い立てられていたんでしょうね、飼うんですか」
「ネコは拾ってもすぐ死ぬからヤダ、それにあいつは少し大きくなってるから、根性も曲がってしまっているよ、助ける気はないよ」

メルカドで買い物を済ませ戻る。先ほどの場所にまたちょこんと毛球がいる。カフェが近づいてフンスンと鼻を鳴らして嗅いでいる。それはまったく反応しない。もう一度クビをつまんでほっぽり投げてやろうと思ったが、くたりと垂れた姿が哀れになり、家まで持っていく。どうせ死んでしまうのだ。面倒を見るだけ無駄だ、やめておけと声がするが、試しにドックフードをくれてやると食べている。いくつか目の前においてやるとあっという間に平らげてしまった。水は飲まない。落ち着いたのを見計らって身体を見る。ひっくり返し、目をめくり、口の中、耳の中を見る、爪の間、肛門を見る。3階に連れて行き、タライに洗剤を垂らし、構わず水をぶっかける。水をかけられて抵抗するが力が入ってないので、あっという間に泡だらけにされ、すっかり力が抜けてしまった。ブルブルと震えているのでドライヤーで乾かしてやっている時に、やっと怒り出した。無理やり押さえて乾かした後、ポイと放り投げた。寒さと恐怖で震えはおさまらないけど逃げる様子もない。

10日間ほど飼い、随分と慣れて来てうちで飼おうと決め、名前をセンとつけた。子猫は癲癇を患っていて、時折激しく発作を起こした。見ていて気の毒だったけれど、調べると本人はあまりわかっていないらしい、辛くもないと書かれていたので注意しながら可愛がっていた。ある朝、発作を起こし脱糞してしまったので後でお風呂に入れてやろうと思い、庭に放してやっている間にどこかへ消えてしまった。まるで神隠しにあったよう。よく懐いていただけに一寸心が痛んだが、それはあの猫の選択だったのだと諦める。いさぎよく諦めることもここでは大切なのだから。

カフェにて

新しくできたカフェの屋上の工事が済んで、そこからの眺めが至極いいと教えてもらったのでトモさんと行く。日当たりがよく気持ちいい。目の前に湖が広がって周辺の村々も良く見ることができる。
コーヒーを飲んでいて湖に泳いでいる男を見つける。男は沖へ沖へと泳いで行く。入江の三分の一くらい行ったところで、水上バスが男を見つけ、近寄って行く。泳いでいることがわかると踵を返して目的地に向かうが、引き波が男を上下に揺さぶっていて、その度に男は立ち泳ぎしなければならない。どうやら反対岸の岬を目指しているようだけれど通りすがるボートの引き波に遊ばれてチョット嫌になってしまったのか立ち泳ぎをしながら後ろを振り返っている。すでに真ん中より向こうようりに行ってしまっているので「早く向こうへ泳ぎ切っておしまい」と思っているとトモさんも「泳いでますねぇ、随分と向こうへ行ったしまったけれど向こう岸まで泳ぐつもりなんですかねぇ」とぼんやりと言っている。「随分と小さくなってしまいましたねぇ、もう少し頑張れば向こう岸だから、石の上で休むことができますよ」と僕もぼんやりした返事をする。ここは日当たりが良すぎて二人とものぼせてしまったのかしら、日に焼けて赤くなってしまったかしらと自分の腕とトモさんの顔を見るけれど、二人ともすでに浅黒い顔をしているのでわからない。

急にトモさんが「ヒデさん碌な手伝いもできず、タダメシを食らってばかりですみません」と言う。「そんなこたぁないよ、ちゃんとやってくれているから感謝しているだーよ」「そうですか、それならいいんですけど・・」「あ〜それでいいよ」と言っているうちに男は向こう岸に泳ぎ着き、石の上によじ登った後、すっかり動かなくなってしまった。精も根も尽き果てたのであろうか、渡り切った満足感に浸っているのであろうか、帰りはまた泳ぐのであろうか、パンツいっちょで歩いて帰ってくるのであろうか。

店の工事をしている職人がやって来て「どうだいい眺めだろ、数週のうちにうちにここにも屋根をつけるし、椅子も置く、もっとよくなるぞ」と話しかけて来た。僕はせっかくの日当たりなのに屋根をつけたらのぼせなくなってしまうなぁと考えていると、トモさんが「ヒデさん、オートラ セマーナとプロキシマ セマーナってどう違うんですかプロキシマは次の週のことですよね、オートラは別の週じゃないですか、意味は同じなんですかねどう使うんですかね、使い分けているのですかね」と聞く。「来週とそのうちの違いじゃないかねぇトモさん。彼らだっていつ完成するかなんてわかってないんだから考えても仕方ないんだよ」といい加減に答えると「あ〜そうなんですね、便利な言葉ですねぇそう言う風に使っているんですね〜」と答えるので「行きましょうかトモさん」と言って席を立った。

ここのカフェはいつ行っても客がいない。閑散としているけれどコーヒーは美味しい。いつかサンペドロに来た際には行かれるがよろしい。

宿を再開します。ご迷惑をおかけしてすみませんでした。ごめんなさい

朝、電気がチカチカとして停電となる。いつものことだろうとタカをくくっていると外で僕を呼ぶ声がするので出てみるとだらりと電線がぶら下がり切れた先は真っ黒に焦げていた。
「どうしたのだ」
「ノセ(知らない)電気がなくなった」
「連絡したのか」
「誰かが後でくるでしょう」
「電話するよ、どこにかければいいのだ」
「電気会社か村役場だよ」
「電話番号を知っているか」
「知らない」

こんなやり取りを何回か何人かと繰り返す。なんでも人任せにして頼ることしかしない住民。やれやれと思ったが、下手に動くと次回も全部僕のせいにするので、隣のオババに「お前役場に行ってこい」と言って引っ込んだ。
内心、これはダメだとわかっていた。過電流で焼け焦げた電線の復旧は今日には無理だ、今日は日曜日、よりによって一番水のない時に電気がないなんて、それは水を屋上のタンクへ運ぶことができないことを意味していた。

ポンプ、Wi-Fi、冷蔵庫、シャワー全てが使えなくなった僕は、即座に泊まり客に知らせた。「明日、宿を締めます。今日にも他のホテルに引っ越した方がいいかもしれません。今日はシャワーも使えないでしょう」

午後になりなんとか水を確保したかったが、どうすることもできず、宿を閉めることを決意した。翌朝、電気の復旧作業を待っている間、僕は悔やみに悔やんだ。

今年の年末は去年とは全く様子が異なり、晦日が迫っても宿は落ち着く気配を見せなかった。出入りが多く、水を多く使っていた。配給日が来てもタンクが満タンになることがなくなっていた。部屋数を増やして宿泊可能人数を増やしたことも災いした。年末のイベントで村のホテルはほぼ満室となり、泊まる場所のない客が飛び込んで来て僕はテントで過ごす日が約半月ほどにもなった。

僕は二つの気持ちを持って宿をやっている。
一人でも多くの旅人を泊めてあげたい。旅人に年末年始を過ごせる場所を提供したい。皆で食卓を囲み楽しい年末年始を過ごしてもらえたらそれは僕にとってもいいことだと言う思い。
もう一つは、宿として快適な衣食住環境を提供しなければいけない、お金をいただいて泊まってもらうのだから、きちんとしなければいけないと言う気持ち。

僕はこれまで相反するこの二つをバランスをとりながらやってこれた。今年も大丈夫だろうとタカをくくっていた。いくつかの出来事があった。ある日、飛び込んで来た女性、彼女は宿がないと言う。「床でもいいから泊めてくれ」と頼まれた。僕は彼女に「その言葉を他のホテルで言ったのか」と聞いた。いくらこの村は安全とはいえここはグアテマラ、いくらなんでも外で寝かせることはできない。言葉の通じないホテルではあっさりと引き下がるのに、ここはどうにかしてくれるという甘えが見え隠れしている気がして嫌な気持ちになった。

家族連れがやって来て部屋があるか聞く。この家族は年末にメールして来ていた。僕はやんわりと断った。何故なら以前ここに泊まった別の家族連れからこの宿のことを聞いて来たに違いなかったから。別に家族連れが嫌なわけでもないし、この知らない家族が嫌いなわけではない。ただ、子供がいるとうるさいのだ。この宿はスペイン語学校に通う旅人が多く泊まるので彼らが勉強できる環境を作っている。同時期に映像クリエイターも宿泊していて、静かな環境でのんびりと編集作業を行いたいと聞いていた。家族に「他の宿を」と言おうとすると言葉を遮って「すでに2軒回りました」と言う。1泊だけならという思いで招き入れた。ところがここから僕の歯車、宿の歯車が噛み合わなくなってしまった。

飛び込みの客に僕は「金は取らない」と言った。彼女はそれではと言う。当然だと思う。でも僕の部屋はすでに物置部屋しかないかったのでそこで暮らしている。そんな部屋に泊めて金を取れるわけがないのだ。聞いているお客さんもどうするのだろうという雰囲気がある。彼らはお金を払っているのだから。
宿で勉強していた人はカフェに出かけて勉強するようになった。他のお客さんも静かなカフェでWiFiがあるところを聞いて出かけて行った。僕は自分が招いた結果に動揺した。宿としてきちんとしたサービスが提供できていないことに気がつき、問い合わせを断り、ネガティブな記事を書いてお客の足を遠ざけた。静かな場所だと聞いてやって来た女性を他のホテルに案内し、家族連れだけにして彼らが出発してから再度受け入れを再開しようと思っていた。そして電気が止まり僕の目論見は破綻した。

インフラが脆弱なグアテマラ。これまでも度々停電はあったし、水が来ないこともあった。それでもなんとか切り抜けて来た。僕はいつか停電と水が足りなくなることを予想できたのに、それに対応する策を練っていなかった。お金がかかるし、こんなトラブルが起きるとは思ってもいなかった。いや、わかっていたのに気がつかないふりをしていた。多くの旅人に泊まってもらいたいという身勝手な思いがいつのまにか勝ってしまっていたのに気がつかなかった。部屋を増やし無理に飛び込み客を入れ、自己満足に浸っていた。

客のいなくなった宿で僕は、宿の再開するべきかどうか迷っていた。少し休みたかった。ビザクリにメキシコへ行っている管理人のトモさんからはこの宿に来たいという人がいますと連絡が入っていたが、僕はこの宿はダメだと言ってくれと頼んだ。セシーはお客が減っていくことをどうしてだと聞いて来た。僕は今、全て断っていることを伝えるとなぜだと詰め寄る。僕は説明するのもめんどくさくなって休みも必要だよとあしらってしまった。翌朝、彼女は休んだ。

朝、僕は包丁を全て出して片端から一心不乱に研いだ。単純作業は全てを忘れさせてくれし、なぜか包丁を研いでいると心が落ち着いていくのだ。1本1本を丁寧に研ぎ上げた。朝の冷たい水で研ぎ上げた包丁はスッキリとしていてただ僕が彼らを使うのを待っているように見えた。
僕は宿の再開を決めた。初心に帰ろう。”迷ったらやる”は僕が旅を始めるときに決めたことだった。バイク旅、ロッククライミング、大陸横断、ダイビングそして宿経営。僕は迷ったらやって来た。それは素晴らしい経験をもたらしてくれたし、多くの友人を作ることができた。

僕は金物屋へ行き、発電機を買った。家具職人を呼んでこれまでの倍の大きさのダイニングテーブルを頼んだ。ガソリンをセシーに頼み、水のタンクから予備の分を抜いた。飛び込んで来た二人の客を招き入れ、SNSに宿再開の告知をした。食材をチェックして、不足分を補充した。山積みとなったシーツと毛布を洗濯した。部屋の扉を開け放し空気を入れ替えた。

買い出しへ出かけ、途中カバさんの店で親子丼を食べた。そういえばここで食べるのも久しぶりだった。留学中、なんども凹んだときにここへ来ては愚痴をこぼし、カバさんの受け流す口調に救われたんだっけ。今日もカバさんは変わらず同じ口調で僕の気持ちを穏やかにしてくれた。お気に入りのカフェに入り、大好きなアイスコーヒーを飲んだ。

宿を再開しました。僕の気持ちは変わりません。一人でも多くの旅人を泊めたい。宿としてきちんともてなしたい。この二つをこなすのはすこうしばかり厄介ではあるけれど出来ると信じています。
気張らず、きちんとものを言えるように、宿の色をこれまで以上にはっきりとkamomosiらしくやっていきます。kamomosiは旅人の宿です。僕は全ての旅人を応援していきます。

日々雑思 明けましておめでとうございます

もうすぐ年末年始がやってくるなぁと思っていたらあれよという間に満室になり、トモさんはメキシコへ、一人で出来るとタカをくくっていたら、飛び込み客やらなにやらでいっぱいいっぱいになってしまう。ベッドを奪われ、部屋を追い出され、屋上で一人テントに暮らすなんとも複雑な年越しになり、ちょっとクタリとなってしまう。
ともあれ、無事に年を越すことができ、お客も出て行ったので、一切の受け入れを断ってちょっとのんびりとカフェに出向く。セシーに私の仕事がなくなるではないかと叱れれたが、人生には仕事も休養も必要なのだよと上手いことを言ってごまかす。手のかかりそうな旅人はほっておいて、つかの間の休日を楽しんだ。

新年、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
昨年中に訪れてくれたすべての旅人の方達に感謝いたします。どうか良い年になりますように。

ネコ来る、ネコ去る
すっかり日が昇りきってしまった正午前、トモさんと買い物に出る。小道の真ん中で薄茶の丸い毛球がうずくまっている。犬が近づいても動かない。かなり弱っている様子でコレはダメだとすぐわかる。クビをひょいとつまんで土手の上に置いてやる。置かれたままの姿でまったくうんでもないし、すんでもない。そのままトモさんとメルカドへ向かう。
「ありゃダメだねトモさん。弱り切ってるよ。きっと昨日の夜、犬がやたらめったら吠えたてていたのはアレの所為だと思う」
「随分と鳴いてましたねー、アレがいたんですね、随分と弱ってましたね、きっと一晩中追い立てられていたんでしょうね、飼うんですか」
「ネコは拾ってもすぐ死ぬからヤダ、それにあいつは少し大きくなってるから、根性も曲がってしまっているよ、助ける気はないよ」

メルカドで買い物を済ませ戻る。先ほどの場所にまたちょこんと毛球がいる。カフェが近づいてフンスンと鼻を鳴らして嗅いでいる。それはまったく反応しない。もう一度クビをつまんでほっぽり投げてやろうと思ったが、くたりと垂れた姿が哀れになり、家まで持っていく。どうせ死んでしまうのだ。面倒を見るだけ無駄だ、やめておけと声がするが、試しにドックフードをくれてやると食べている。いくつか目の前においてやるとあっという間に平らげてしまった。水は飲まない。落ち着いたのを見計らって身体を見る。ひっくり返し、目をめくり、口の中、耳の中を見る、爪の間、肛門を見る。3階に連れて行き、タライに洗剤を垂らし、構わず水をぶっかける。水をかけられて抵抗するが力が入ってないので、あっという間に泡だらけにされ、すっかり力が抜けてしまった。ブルブルと震えているのでドライヤーで乾かしてやっている時に、やっと怒り出した。無理やり押さえて乾かした後、ポイと放り投げた。寒さと恐怖で震えはおさまらないけど逃げる様子もない。

10日間ほど飼い、随分と慣れて来てうちで飼おうと決め、名前をセンとつけた。子猫は癲癇を患っていて、時折激しく発作を起こした。見ていて気の毒だったけれど、調べると本人はあまりわかっていないらしい、辛くもないと書かれていたので注意しながら可愛がっていた。ある朝、発作を起こし脱糞してしまったので後でお風呂に入れてやろうと思い、庭に放してやっている間にどこかへ消えてしまった。まるで神隠しにあったよう。よく懐いていただけに一寸心が痛んだが、それはあの猫の選択だったのだと諦める。いさぎよく諦めることもここでは大切なのだから。

カフェにて

新しくできたカフェの屋上の工事が済んで、そこからの眺めが至極いいと教えてもらったのでトモさんと行く。日当たりがよく気持ちいい。目の前に湖が広がって周辺の村々も良く見ることができる。
コーヒーを飲んでいて湖に泳いでいる男を見つける。男は沖へ沖へと泳いで行く。入江の三分の一くらい行ったところで、水上バスが男を見つけ、近寄って行く。泳いでいることがわかると踵を返して目的地に向かうが、引き波が男を上下に揺さぶっていて、その度に男は立ち泳ぎしなければならない。どうやら反対岸の岬を目指しているようだけれど通りすがるボートの引き波に遊ばれてチョット嫌になってしまったのか立ち泳ぎをしながら後ろを振り返っている。すでに真ん中より向こうようりに行ってしまっているので「早く向こうへ泳ぎ切っておしまい」と思っているとトモさんも「泳いでますねぇ、随分と向こうへ行ったしまったけれど向こう岸まで泳ぐつもりなんですかねぇ」とぼんやりと言っている。「随分と小さくなってしまいましたねぇ、もう少し頑張れば向こう岸だから、石の上で休むことができますよ」と僕もぼんやりした返事をする。ここは日当たりが良すぎて二人とものぼせてしまったのかしら、日に焼けて赤くなってしまったかしらと自分の腕とトモさんの顔を見るけれど、二人ともすでに浅黒い顔をしているのでわからない。

急にトモさんが「ヒデさん碌な手伝いもできず、タダメシを食らってばかりですみません」と言う。「そんなこたぁないよ、ちゃんとやってくれているから感謝しているだーよ」「そうですか、それならいいんですけど・・」「あ〜それでいいよ」と言っているうちに男は向こう岸に泳ぎ着き、石の上によじ登った後、すっかり動かなくなってしまった。精も根も尽き果てたのであろうか、渡り切った満足感に浸っているのであろうか、帰りはまた泳ぐのであろうか、パンツいっちょで歩いて帰ってくるのであろうか。

店の工事をしている職人がやって来て「どうだいい眺めだろ、数週のうちにうちにここにも屋根をつけるし、椅子も置く、もっとよくなるぞ」と話しかけて来た。僕はせっかくの日当たりなのに屋根をつけたらのぼせなくなってしまうなぁと考えていると、トモさんが「ヒデさん、オートラ セマーナとプロキシマ セマーナってどう違うんですかプロキシマは次の週のことですよね、オートラは別の週じゃないですか、意味は同じなんですかねどう使うんですかね、使い分けているのですかね」と聞く。「来週とそのうちの違いじゃないかねぇトモさん。彼らだっていつ完成するかなんてわかってないんだから考えても仕方ないんだよ」といい加減に答えると「あ〜そうなんですね、便利な言葉ですねぇそう言う風に使っているんですね〜」と答えるので「行きましょうかトモさん」と言って席を立った。

ここのカフェはいつ行っても客がいない。閑散としているけれどコーヒーは美味しい。いつかサンペドロに来た際には行かれるがよろしい。

今年のご報告

まずはこのブログを見に来てくださった皆様に
今年もたくさんの方々が拙いブログを読んでくださいました。ありがとうございました。宿が忙しく、更新がなかなかできないにも関わらず購読を続けていただき感謝しています。

今年は2万人を超える方がこのページを見に来てくださいました。閲覧回数は57000回を超えました。この数字は昨年を大幅に超えるものでした。4年目にしてこんなにたくさんの人の目にとまるようになったことは僕にとって大きな励みとなっています。

106カ国で閲覧され90カ国で複数回の閲覧がありました。まさかこんなに多くの国から見てもらえるようになるとは思いもしませんでした。宿を始めたことが大きな要因であることは想像がつきますが、宿を始め1年でこうした国々を旅する人、またはその国に住んでいる人が見てくれるなんて4年前には思いもしないことでした。

旅を一旦中断する形でグアテマラで宿を始め、この1年で300人を超える方たちがこの宿に訪れて、僕にとても大きな影響を与えてくれました。毎日が新鮮な驚きに満ち満ちて、非日常の世界が僕を楽しませてくれ続けています。それは旅にも劣らないほどの素晴らしいものであって僕の好奇心を刺激してやみません。日々目に留まるたわいもないことが実はとても面白いことだと気がつくようになり、それを日々雑思として綴っているだけのブログが多くの方の目に止まることに戸惑いと、畏れ多さを持ちつつも書き続けて来て良かったと思っています。

一足先に宿は2年目を迎え、新たな年も楽しいことが目白押しとなっています。遅筆でなかなか公開するに至らない記事や書きたいことがまだまだ山ほどありますが、それはまた来年に。

私ごと
僕のスペイン語はこの1年で大きく成長しました。特に勉強らしいこともせずに日々の生活の中で少しづつ伸びて来た僕のスペイン語の感覚は日本語と変わらないほど身近なものとなりました。ふと気がつくとスペイン語で考えている自分に気がついたときは気恥ずかしさと嬉しさがないまぜになった気分でちょっと鼻が高くなった気分になることがありました。市場の人、近隣住民、友人、女中のセシーみんなが作り上げてくれている僕の新しい
アイデンティテーはまだまだ未完成ではありますが、大きな希望を僕にもたらしてくれています。一方でいよいよもって怪しくなって来た英語。もう少しなんとかしなければと焦りばかりが先行して、思うに任せない状態が続いています。せっかく手に入れた旅のツールを手放してしまっては勿体無いのでなんとしても捕まえておかなくてはと思っています。

最後にブログを見に来てくださった全ての人と友人たちへ
今年もお世話になりました。来年もよろしくお願いいたします。
良いお年をお迎えくださいませ。

HIDEKI

根も葉もない噂を立てられ困っていますよ。リスペクトを忘れた馬鹿者

先日、うちでお願いしている家庭教師とのレッスンは意味がなかったという噂があると、心配した友人のカバさんが連絡をくれた。僕はすぐにピンと来た。

家庭教師のレオはとても穏やかで辛抱強く生徒が発言するまで待ってくれる。それは彼の最大の長所で、初心者、特に日本人はシャイな人が多いので初めは口が遅く、あせりばかりが先立ってしまい、自信を持てなくなってしまう。先生がイラつきを見せたりすればなおさら。日本人の気質を知るレオは正に初心者にはうってつけの先生だと僕は自信を持って勧めている。学校で教えていた経験のある彼は、ある程度文法の知識は持っているが、現役の先生に比べれば見劣りがするのは否めない。それでも時間には必ずやって来て、すっぽかすこともなく、真面目な彼はこの村では数少ない優秀な家庭教師の一人だと思う。

あるお客さんが「スペイン語を習いたい」というので学校と家庭教師の案内をすると「学校は高いので嫌だ」という。彼はすでに他の場所でスペイン語を学んで来ていたので、家庭教師では物足りなくなるであろうことを伝えても頑としてこちらのいうことは聞かなかった。そこでレオを紹介した。初めは「気に入った」と言っていた彼の顔が曇りだしたのは数日してから、僕はそうであろうと見当がついた。
マリアは僕のスペイン語の先生で学校で働いている。この宿へは毎晩皿洗いに働きにくる。訳あって彼女にはお金が必要なのだ。彼女はこの村でも指折りの先生で、教え方、文法の知識も豊富。前述の彼があまりにも悩んでいるので僕はマリアにちょっと助けてもらうことにしたのだ。本来、学校で働いている先生はうちでは使うことがない。ほとんどの学校で家庭教師は禁止しているので、もし見つかれば彼女たちは首になってしまう。

彼の質問を聞いたマリアは、スラスラと質問に答え、彼も納得がいったようだ。僕は彼に「これが学校の先生のスキルだよ」と教えてあげたのだ。彼はそれをいたく気に入って、マリアに家庭教師を頼みたいとしきりにせがまれたが、僕は学校との約束があるからそれはできないと断った。

ちょうど閑散期の終わりの時期、学校の先生たちは少しでも金を稼ごうと学校に内緒でうちの宿に売り込みに来る。彼らの言い分は「学校はもうやめた、一緒にやらないか」というものだ。そんな彼らをその青年がほっておくわけがない。早速、レッスンを受ていたがどうも気に入らないらしい。そもそもそうやって売り込みに来る先生は初めに仕事を干されてしまう、スキルの低い先生が多いのだ。彼の不満は募るばかり、他の先生はいないのか、もっと安く教えてくれないのかと毎日のように言いだしてしまった。

僕は彼にこの村で家庭教師だけでスペイン語をマスターするのは難しいのではないかとアドバイスしたが聞き入れるつもりはないらしい。ついに手癖の悪い先生に手をだし始めたのでこの宿ではできないのでカフェにいってくれないかと頼んだ。そんな折、ある学校の先生が辞めたので彼に進めるといたく気に入ったようで、せっせとレッスンに通いだした。しかしレッスンでは文法ばかりだと言い出す始末。僕は彼にどうしたいのか聞いてみることにした。彼の希望は次の通り

相性がいい先生がいい
明るい先生がいい
間違いを直してくれる先生がいい
話題が豊富な先生がいい

どれも抽象的であったので僕は

相性は自分のことなので試してみないとわからない
性格は皆明るいので問題はないでしょう、そもそも明るいとは何をさしているのだい?
間違いは直してくれているでしょう?言い回しの違いを直す先生はそんなにいないでしょ、第一、君は自分の話し方がポピュラーな言い回しかどうかを気にしているだけで間違ってはいないのだから君の言う間違いを直してくれる先生はいないよ
どんな話題がいいのか教えてくれないか、好きな話題を提示すれば先生だってやりやすいし、第一、君の好きな話題を何も言わずにわかってくれる先生などいないよ

彼は納得がいかない様子で「新しい先生を見つけてきた、隣に住んでいる」と言う。僕は「彼女は学校で働いているではないか、うちでは使うことはできないといったでしょ」と言うととにかく話をしてみたいと言うので渋々、先生のところへ赴いた。

彼女にどんな話題を持っているか聞いてごらんと促すと彼は先生に質問する。先生は「グアテマラのことやマヤについてかな」と答える。彼は「それはつまらないから嫌だ」と言う。すかさず先生は「どんな話題がいいの?」と聞き返す。彼はしばらく黙って「僕の楽しい話題」とだけ答えた。僕の楽しい話題が赤の他人の先生にわかるわけもなく僕は先生と顔を見合わせてしまった。最後に彼は先生に値段を聞くと至極真っ当な金額を言われ顔を曇らせた。

宿に帰り、ここの人たちはネイティブじゃないから教えられないのだと見当はずれのことを言いだした。確かにここの人たちはマヤの言葉を話すが、それがネイティブではないと言うことにはならない。僕らに比べ得ればとても上手に話すことができるのだから。彼は正しいスペイン語を習いたいと言うが、僕には正しいスペイン語がなんであるかわからない。スペインのスペイン語が正しいのなら、彼はスペインに行くべきだ。そもそもスペインだって地方により発音が違ったり、南米とは異なる言い回しをするが、一体どっちが正しいなどあるのかと困惑してしまった。

彼はさらに他の先生を知らないかと食い下がる。僕はこの村には君の求めることを満たす先生はいないよ、どうしてもここで見つけたいのならバーやカフェに先生募集の紙を貼って連絡を待てばいい、きっとすぐに連絡があるはずだと教えて上げた。しかし彼は不満そうに近所の女の子や女中さんのセシーはどうだと言うので、近所の女の子だったら5ケツで教えてくれるだろう。会話がしたいのなら、彼女たちをパナハッチェルにでも誘って行ってくればいい。もしセシーを使うならそれは家庭教師として使ってくれ。彼女のスペイン語は正しい、そして僕は彼女に仕事としてスペイン語を教えるように言っているから当然、料金は発生するよと突き放した。

僕は、クオリティーを求めるならそれなりの料金を払わなければ難しいと言うと、彼はだって高いじゃないですかとふくれてしまった。一体彼はどこからやってきたのだと不思議に思ってしまった。自国で学ぶより十分に安い価格で高いクオリティーのスペイン語を学べるのに一体何が高いと言うのだ、彼らの報酬は安く、外国て言語を学ぶチャンスなどなきに等しいと言うのに、学費を払い大学で学んできた彼らの努力を一切見ようとせず、安く買い叩こうとする彼の姿勢は到底受け入れることができなかった。彼にはリスペクトする心がないのだ。

僕は、これ以上学校の先生を買い叩くようなことをするのなら、この宿にはいることはできない。安いホテルに泊まり、浮いたお金で学校に通いなさいと言った。彼はご飯がまずい、朝食がつかないなどグダグダと駄々をこねていたが、僕の態度が変わらないので諦めた。

噂のことを聞いたのはその数日後、僕は彼がレオとのレッスンが無意味だったと言っていることを聞いて、とても残念な気持ちになった。自分のやりたいことを、自分の好きなことを、やってくれないと嘆き、お金は払わず、クオリティーだけを求める自分勝手極まりない。それを棚に上げて、吹聴して回ることだけはいっちょまえにやるのだ。

レオの名誉のために僕は言っておく。彼の良さは穏やかで知的に話ができることだ。学校とは違い、日常会話によく出てくるフレーズなどを挟みながら、根気強く教えてくれる家庭教師は少ない。そんな彼の名誉を傷つけるようなことは、決して許せないし、今回の噂話は真っ赤な嘘だとはっきり言っておく。