日々雑思 餃子とニキビ

先月は客の見込みもなく、女中のセシーに暇を言いつけたが、メガネを買ってくれたので、働く、金はいらないと言って毎日よく来てくれた。スペイン語の勉強も手伝ってくれ、月末の急な来客にも対応してくれた。そんな彼女の望みと悩みにおっさんが応えてやりたくなったが、書いていて気持ちが悪くなった。

なぜかはわからない。女中のセシーは餃子が大好き。餃子のためなら教会を休むこともあるほど、餃子には信仰を超える魅力があるらしい。「今日は餃子だ」「ホントか、わたしにも残しておいてくれ」「明日の朝食にしてやる」「う〜ん」と身をくねらせている。翌朝、約束通り餃子となる。テキパキと食事の支度にかかる。皮の作り方、具の包み方は既に知っているので焼き方を教えてやる。よく焼けている。タレも自分で作らせる。

食べるごとに口元がニヤケ、う〜んう〜んと唸っていて気持ち悪い。こちらが笑うと「なにを笑っているのだ」と言う。「お前、気持ち悪いぞ、ニヤニヤしながら唸りながら食べてるし」「ホントかアハハ、ヒデキも食べろ」「お前にやる、好きなだけ食べろ」「そうか、タレをもう少し作ってもいいか」「好きなだけ作れ」「なんでヒデキはタレを少ししかつけないのだ、こんなに美味しいのに」「アハハそうか、それは何よりだ」15個も食べたであろうか、さすがに苦しくなったのか帯を緩めている。それでも最後まで残さずペロリと平らげでしまった。「お前の舌は中華味がいいのだな、こんど隣村の中華屋に連れて行ってやる、そこで春巻きを食べさせてやる」「うまいのか」「あー多分な、あそこのは美味い」。サラを洗っている時、オデコにニキビが出来ている事に気がついた。「お前の、オデコ」「そうなんだよヒデキ、とっても醜くて嫌だ」「馬鹿喰いばかりしているからそうなるのだ」「これは食べ過ぎると出来るのか」「若者は皆できる」「でもわたしは出来たことがない」こちらの若者の肌はとでもキレイで客もニキビがないと驚いていることがある。セシーもキレイな肌をしていたが、オデコにポコポコと出来て痛がゆそう。「ちゃんと洗っているのか」「洗ってる、でも顔用の石けんがあるらしいが高いから買えない、友達は買った、どうすればいい」「待っていろ」。確か洗顔石けんがあったはずだと思い部屋に行く。年頃の娘では気になるのであろう。化粧水とクリームを持ってもどる。「なんだそれは、痛いのは嫌だ」「痛くはない、ほら石けんだ」「これは顔用か」「そうだ」「どこで買ったのだ」「ニューヨークだ」「アメリカかすごい、これで洗うとキレイになるのか」「そうだ洗ったあとコレを使え、高いんだぞ、客が困った時にくれてやるためにあるのだ、お前にぜんぶやるのではない、全部使うなよ」「なんだ、全部くれるのではないのかケチだな」「なんでおまえにぜんぶやらなくてはいけないのだ、宿の女中が醜くては客が寄り付かないであろう、だからだ」「アハハそうか」「イヒヒそうだ」「コレで直接こするのか」「ハッ?違う、泡だててだな」なんでこんなことをおっさんが説明してやらなければならないのだと思いながら、しっかりとクリーム状の泡を作り、肌に手が当たらないように泡でクルクルと丁寧に優しく洗え、泡が汚れを落としてくれる。あまり長い時間はかえってよくない、油分は大切だとオデコに泡を乗せてやる。ゴシゴシ洗いはじめるので慌てて「違う、泡だけをオデコの上でまぜろ」とやってやる。めずらしくジッとしている。「わかったか」「わかった、なぜ知っている」「日本の女は、こうした事に命をかけていて、お前の教会のように大切な行事なのだ、顔がキレイにならなければ仕事にも行かないし、彼氏とのデートですら遅れて行くのだ」「ふーん」「洗い終えたらコレをつけろ、コットンに含ませてやれ、つぎにコレだ、少しベタつくがすぐに馴染む、それと今日はコレを使え、なんといったかな..パックだ。コレをそっと広げてマスクのように顔にのせろ。30分くらいかな、わかったか」「わかった、とーてもありがとう。キレイにならなかったらどうする、ヒデキのミスだ」「アハハ、そうだな、馬鹿喰いばかりしていてはムリだな。こうしてこのリキッドを付けるのだ、ちゃんとわかったのか」「ヒデキはオンナにこうしてやるのか」「やらない、お前はバカだからおしえてやったのだ、さあ、終わった。帰れ。それからそれはお前にやったのではない。ちゃんと返せよ、中華屋に行った時向こうの村にある土産物屋に連れていってやる。外人が好きな天然成分の石けんがあるはずだ、買ってやる」「ホントかグラーシアス」「明日は遅刻するなよ今日は20分もしやがって」「ウソだ15分だ、良い午後をヒデキ」「あーお前もな」

娘を持ったことはことはないが、そんな気持ちになった。やはり歳頃の娘が思うことは万国共通なのであろう。とりわけこの宿は日本人ばかり、彼女達を見て、同じ女として羨ましくも感じているのかもしれない。掃除をしている間、せっせと顔を作っているのを見ながら自分もと思うのであろうか。子供のように夢中で餃子を食べる姿が微笑ましくもあり、ニキビを気にする様子も可愛らしくもあった。たまにはこうした事があっても彼女の神も怒らないであろう。

ここのところ客もくるようになり、よく働くセシーには感謝している。もう少しよくしてやりたいが、調子に乗らせると手がつけられないし、態度を変えるのも癪に触る。客がもう少しくるようであれば、穴の空いた靴を取り替えてやろうと思う。

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