日々雑思 コーヒー

少し早く目覚めた。夜間に降った雨がチリを流し、スッキリとした朝になる。気持ちがいい。空気が透きとおり対岸までくっきりと見える。葉は汚れを落とし鮮やか。湿った土に柔らかな陽が差す。木陰とのコントラストが美しい。セシーが来るまでの間、コーヒーを淹れる。2階のテラスでのんびりと飲む。いつものテルモスではなくアルミの安カップ。まだ若かった頃、貧弱な装備でキャンプをしていた時に使っていた口に当てると金属の味がするアレ。金属臭が口に広がるように当時の記憶が蘇った。懐かしい。

今使っているコーヒーはサンペドロ産で焙煎屋に頼んでうちの宿のためにローストしてもらったもの。煎り方にこだわり客にサンペドロのコーヒーを飲んでもらいたかった。皮肉なことにこのコーヒーに変えた途端に客が来なくなってしまい提供することは叶わず間もなく飲みきってしまう。いい方に解釈すれば独り占め。好きなだけ飲める贅沢三昧の毎日となる。

日中は軽く汗ばむ陽気となり、湖畔のカフェでのんびりと勉強していると話しかけられた。

話しかけて来たのはアメリカ人。以前はタイで暮らしていたと言う。彼はベテラン(退役軍人)で少し足が悪いようだ。合点がいった。あまりスペイン語が得意でない彼に合わせて英語にする。僕の拙い英語ではどうかと思ったが思いの外楽しく会話が出来る。自分でも不思議なくらい言葉が出てきた。よくこんな言い回し覚えていたなと話しながら驚いている自分におかしくなってしまった。

彼がタバコを勧める。「ラッキーストライク」ひさびさに見たパッケージ。しかもそれは両切りのオリジナルだった。ベトナム戦争当時、兵隊達はこぞってこのタバコを吸っていた。それは弾に当たらないようにというおまじない。ウィットが効いていていかにも古き良きアメリカだ。そんな話をすると彼は大喜びして、益々盛り上がり、あっという間に時間が過ぎた。彼はとても楽しかったと言って立ち上がった。少し後にカフェを出る。支払いをしようとすると店長のルイスがもう終わってるよ彼が済ませていったと言う。

嫌味なく良い思い出を作ってあげることが出来る彼が羨ましくなった。

夕方からザッときた。カフェも散歩が出来ねぇとふてくされている。雨が止んだので濡れた廊下をモップで拭く。3階に上がると目に飛び込んできたのは一面に広がるホタルの光。いったい何千匹いるのであろうと思うほど数。まるでクリスマスのイルミネーションのように輝く光をしばらくの間眺めてしまった。年に何回かあるスーパーハッチ(一種類の昆虫がいっせいに羽化する現象)は僕の楽しみの一つ。

カフェを誘い裏山に行く。思いがけず散歩が出来たカフェも大喜び。カフェも山肌を見て不思議そうな顔をしているところを見ると彼にもホタルが見えているのであろうか。藪から戻ったカフェは触りたくないほど汚れている。「お前今日風呂な」と言うとゲーという顔をしている。汚れついでに夜の散歩を続ける。カフェの思うに任せて後をついて行く。こっちもいいか?と振り向くカフェ。好きにしろと手で行け行けと伝えると嬉しそうに先に進む。湖畔から坂道を登りセントロに向かう。雨後で人通りは多くないけど屋台はやっていた。カフェに「食べるか」と聞くとサッサと店の前に行き座っている。知り合いの奥さんが肉を焼いている。「たまには食べようかな」と言ってイスに座る。トリのバーベキューを頼んだ。「コーヒー飲む?」と聞かれ反射的に「うん」と答えてしまってからしまったと思った。屋台のコーヒーは薄くて砂糖がたっぷり入っていてお世辞にも美味しいとは言えない。「甘いんでしょ」と聞く。彼女は「大丈夫よ、今出来たの、まだ砂糖入れてないから、あなた砂糖は入れないんでしょ」と言う。そんなこと言ったっけと自分でも忘れてしまったことを彼女は覚えていてくれた。それが嬉しかった。出てきたコーヒーはいつもの薄いヤツではあったけれどとても美味しく感じた。カフェのために少し多めに肉もくれて、カフェも喜んでいる。食べ終わり「全部でいくら?」と聞くと食事代しか言わないので「コーヒー代忘れてるよ」と言うと「今日はいいわ」とニッコリ笑った。「ありがとう、ごちそうさま、いい夜を」「あなたも」。普段は客の夕食の支度で夕方から夜に出かけることなど滅多に出来ない。突然こうした優しさに触れるとジンとくる。何が良かったのかまったくわからないけれど思わず口から出た言葉は「よかった」だった。

僕が旅で味わってみたい要素がこんなにもあったのかと驚きの日々。旅行者はこんな出会いを毎日味わっているのかと羨ましくなった。観光する場所などなくていい。規模が小さく皆が知り合いのような感じで根が優しい。観光客の少なくなった今時期は本当のサンペドロの良さを味わえる。まだまだやりたいことの続きがある。悠々として急がなければ、きっとこんな良い時間は長くは続かないから。

最後の文は少し前に書いてあったものです。その通りに良い時間が長く続くことはなかったけれど最後の散歩は僕らにとってとてもいい時間でした。書き溜めた記事はこれが最後です。

宿のサイトを移転してこのブログを宿泊者の目から遠ざける事にしました。僕の思考はきつすぎるのです。人と異なる思考は他者の気分を害してしまうことがあるのです。そうであっても僕は自分の考えを吐き出す場が必要なのです。Kamomosi の活動の一つとしての宿業をこのサイトから外すことは抵抗がありましたが、無理がある事も感じていました。これはちょうど良い機会だと判断しました。ブログはこのまま更新していきます。いつもいいねと言ってくれる方々にはこの場を借りてお礼を申し上げます。

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