宿を再開します。ご迷惑をおかけしてすみませんでした。ごめんなさい

朝、電気がチカチカとして停電となる。いつものことだろうとタカをくくっていると外で僕を呼ぶ声がするので出てみるとだらりと電線がぶら下がり切れた先は真っ黒に焦げていた。
「どうしたのだ」
「ノセ(知らない)電気がなくなった」
「連絡したのか」
「誰かが後でくるでしょう」
「電話するよ、どこにかければいいのだ」
「電気会社か村役場だよ」
「電話番号を知っているか」
「知らない」

こんなやり取りを何回か何人かと繰り返す。なんでも人任せにして頼ることしかしない住民。やれやれと思ったが、下手に動くと次回も全部僕のせいにするので、隣のオババに「お前役場に行ってこい」と言って引っ込んだ。
内心、これはダメだとわかっていた。過電流で焼け焦げた電線の復旧は今日には無理だ、今日は日曜日、よりによって一番水のない時に電気がないなんて、それは水を屋上のタンクへ運ぶことができないことを意味していた。

ポンプ、Wi-Fi、冷蔵庫、シャワー全てが使えなくなった僕は、即座に泊まり客に知らせた。「明日、宿を締めます。今日にも他のホテルに引っ越した方がいいかもしれません。今日はシャワーも使えないでしょう」

午後になりなんとか水を確保したかったが、どうすることもできず、宿を閉めることを決意した。翌朝、電気の復旧作業を待っている間、僕は悔やみに悔やんだ。

今年の年末は去年とは全く様子が異なり、晦日が迫っても宿は落ち着く気配を見せなかった。出入りが多く、水を多く使っていた。配給日が来てもタンクが満タンになることがなくなっていた。部屋数を増やして宿泊可能人数を増やしたことも災いした。年末のイベントで村のホテルはほぼ満室となり、泊まる場所のない客が飛び込んで来て僕はテントで過ごす日が約半月ほどにもなった。

僕は二つの気持ちを持って宿をやっている。
一人でも多くの旅人を泊めてあげたい。旅人に年末年始を過ごせる場所を提供したい。皆で食卓を囲み楽しい年末年始を過ごしてもらえたらそれは僕にとってもいいことだと言う思い。
もう一つは、宿として快適な衣食住環境を提供しなければいけない、お金をいただいて泊まってもらうのだから、きちんとしなければいけないと言う気持ち。

僕はこれまで相反するこの二つをバランスをとりながらやってこれた。今年も大丈夫だろうとタカをくくっていた。いくつかの出来事があった。ある日、飛び込んで来た女性、彼女は宿がないと言う。「床でもいいから泊めてくれ」と頼まれた。僕は彼女に「その言葉を他のホテルで言ったのか」と聞いた。いくらこの村は安全とはいえここはグアテマラ、いくらなんでも外で寝かせることはできない。言葉の通じないホテルではあっさりと引き下がるのに、ここはどうにかしてくれるという甘えが見え隠れしている気がして嫌な気持ちになった。

家族連れがやって来て部屋があるか聞く。この家族は年末にメールして来ていた。僕はやんわりと断った。何故なら以前ここに泊まった別の家族連れからこの宿のことを聞いて来たに違いなかったから。別に家族連れが嫌なわけでもないし、この知らない家族が嫌いなわけではない。ただ、子供がいるとうるさいのだ。この宿はスペイン語学校に通う旅人が多く泊まるので彼らが勉強できる環境を作っている。同時期に映像クリエイターも宿泊していて、静かな環境でのんびりと編集作業を行いたいと聞いていた。家族に「他の宿を」と言おうとすると言葉を遮って「すでに2軒回りました」と言う。1泊だけならという思いで招き入れた。ところがここから僕の歯車、宿の歯車が噛み合わなくなってしまった。

飛び込みの客に僕は「金は取らない」と言った。彼女はそれではと言う。当然だと思う。でも僕の部屋はすでに物置部屋しかないかったのでそこで暮らしている。そんな部屋に泊めて金を取れるわけがないのだ。聞いているお客さんもどうするのだろうという雰囲気がある。彼らはお金を払っているのだから。
宿で勉強していた人はカフェに出かけて勉強するようになった。他のお客さんも静かなカフェでWiFiがあるところを聞いて出かけて行った。僕は自分が招いた結果に動揺した。宿としてきちんとしたサービスが提供できていないことに気がつき、問い合わせを断り、ネガティブな記事を書いてお客の足を遠ざけた。静かな場所だと聞いてやって来た女性を他のホテルに案内し、家族連れだけにして彼らが出発してから再度受け入れを再開しようと思っていた。そして電気が止まり僕の目論見は破綻した。

インフラが脆弱なグアテマラ。これまでも度々停電はあったし、水が来ないこともあった。それでもなんとか切り抜けて来た。僕はいつか停電と水が足りなくなることを予想できたのに、それに対応する策を練っていなかった。お金がかかるし、こんなトラブルが起きるとは思ってもいなかった。いや、わかっていたのに気がつかないふりをしていた。多くの旅人に泊まってもらいたいという身勝手な思いがいつのまにか勝ってしまっていたのに気がつかなかった。部屋を増やし無理に飛び込み客を入れ、自己満足に浸っていた。

客のいなくなった宿で僕は、宿の再開するべきかどうか迷っていた。少し休みたかった。ビザクリにメキシコへ行っている管理人のトモさんからはこの宿に来たいという人がいますと連絡が入っていたが、僕はこの宿はダメだと言ってくれと頼んだ。セシーはお客が減っていくことをどうしてだと聞いて来た。僕は今、全て断っていることを伝えるとなぜだと詰め寄る。僕は説明するのもめんどくさくなって休みも必要だよとあしらってしまった。翌朝、彼女は休んだ。

朝、僕は包丁を全て出して片端から一心不乱に研いだ。単純作業は全てを忘れさせてくれし、なぜか包丁を研いでいると心が落ち着いていくのだ。1本1本を丁寧に研ぎ上げた。朝の冷たい水で研ぎ上げた包丁はスッキリとしていてただ僕が彼らを使うのを待っているように見えた。
僕は宿の再開を決めた。初心に帰ろう。”迷ったらやる”は僕が旅を始めるときに決めたことだった。バイク旅、ロッククライミング、大陸横断、ダイビングそして宿経営。僕は迷ったらやって来た。それは素晴らしい経験をもたらしてくれたし、多くの友人を作ることができた。

僕は金物屋へ行き、発電機を買った。家具職人を呼んでこれまでの倍の大きさのダイニングテーブルを頼んだ。ガソリンをセシーに頼み、水のタンクから予備の分を抜いた。飛び込んで来た二人の客を招き入れ、SNSに宿再開の告知をした。食材をチェックして、不足分を補充した。山積みとなったシーツと毛布を洗濯した。部屋の扉を開け放し空気を入れ替えた。

買い出しへ出かけ、途中カバさんの店で親子丼を食べた。そういえばここで食べるのも久しぶりだった。留学中、なんども凹んだときにここへ来ては愚痴をこぼし、カバさんの受け流す口調に救われたんだっけ。今日もカバさんは変わらず同じ口調で僕の気持ちを穏やかにしてくれた。お気に入りのカフェに入り、大好きなアイスコーヒーを飲んだ。

宿を再開しました。僕の気持ちは変わりません。一人でも多くの旅人を泊めたい。宿としてきちんともてなしたい。この二つをこなすのはすこうしばかり厄介ではあるけれど出来ると信じています。
気張らず、きちんとものを言えるように、宿の色をこれまで以上にはっきりとkamomosiらしくやっていきます。kamomosiは旅人の宿です。僕は全ての旅人を応援していきます。

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宿を再開します。ご迷惑をおかけしてすみませんでした。ごめんなさい」への2件のフィードバック

    1. HIDEKI 投稿作成者

      あおきさん
      いつもありがとうございます。このところトラブル続きで結構凹んではいますが、こんな時は淡々とやるべきことをやるしかないんです。
      うまくいかないことが起きた後はきっとうまくいんです。たぶんですけどね笑

      返信

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