野良犬に噛まれたとでも思ってはいても忘れてはいけない話

 

海外には危ないことがあって、強盗や窃盗、殺人、麻薬と日本ではあまりなじみのないことばかり。病気もしかり。蚊や毒虫、風土病、赤痢、コレラなど怖いものが揃い踏み。日本では家族とまで言われている犬畜生も海を渡れば脅威となる。よく運悪くひどい目にあった時に「野良犬にでも噛まれたと思って忘れなさい」と言われるが、こちらでは野良犬に噛まれただけだと思っていると大変なことになる。

 

ある日

カフェ、幸代を連れ散歩にでる。路地を曲がるとひょいと犬が出て来ていきなりお尻に噛み付いた。イタと思うまもなくすぐに足にも噛み付く。犬の腹を思い切り蹴飛ばし顔面を殴りつける。他の犬がやって来て腕や足に噛みつきだす。カフェが間に割って入り、勇敢に立ち向かう。頭は沸騰したようにブチ切れて最初に噛み付いた犬を何度も蹴り飛ばす。サンダルは吹っ飛んで、シャツやズボンに血が飛んでいる。自分のなのか犬のなのかもわからない。近所の人が騒ぎを聞きつけて出て来て犬を追い払ってくれた。

 

 

カフェが心配そうに寄り添う。幸代は知らん顔で離れたところでぼんやり立っている。僕は彼らを連れて散歩を続ける。シャツやズボンのあちこちに血がついている。傷を調べると腕、足、お尻に咬み傷があり血が出ている。シャツについている血は犬のものらしく、カフェと幸代を調べるが怪我はない。きっと襲ってきた犬の返り血であろう。最初に襲ってきた犬は血を流していた。

 

 

家に帰り、イソジンで消毒する。ズキズキと鈍い痛みがある。これは病院へ行かないとダメだなとぼんやりと考える。噛まれたのは朝の7時。明日の朝までが期限。24時間以内に打たなかった場合、もし噛んだ犬が狂犬病に感染していた場合、発症率はかなり高くなる。

 

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狂犬病ウイルスに感染して発病した場合は、ほぼ100%死亡するといわれています。これまでに発病し、回復したのは6例。ワクチン接種を受けていたか、症状が出る前に暴露後のワクチン接種や免疫血清による予防処置を受けていました。狂犬病ウイルスは脳を乗っ取って人を死亡させます。脳の組織自体に直接、傷害は与えず免疫機能異常を起こさせます。この仕組みを抑えることで回復させた例はアメリカの少女一人、この試みは他にも各国で6回試みられましたが全て失敗しています。

 

日本では1957 年以降発生していませんでしたが、2007年フィリピンから帰国後に狂犬病を発症した男性が日本国内で死亡しています。この男性はフィリピンに渡航中に犬に手を咬まれ罹患したとされていて予防接種は受けていませんでした。

 

 

感染から発症までの潜伏期間は12カ月で噛まれた部位により異なります。発熱、頭痛、倦怠感、筋痛、疲労感、食欲不振、悪心・嘔吐、咽頭痛、空咳等の感冒様症状ではじまる。咬傷部位の疼痛やその周辺の知覚異常、筋の攣縮を伴う。脳炎症状は運動過多、興奮、不安狂躁から始まり、錯乱、幻覚、攻撃性、恐水発作等の筋痙攣を呈し、最終的には昏睡状態から呼吸停止で死んでしまいます。

 

現在も有効な治療方はなく、曝露後のワクチン接種(狂犬病に感染した動物に咬まれた直後に行う連続ワクチン接種)が狂犬病に感染してから発症を防ぐことのできる唯一の方法です。

 

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フェイスブックに咬み傷をアップするとすぐさまマリアが電話をかけてきた。「すぐに病院へ行かないとダメだヒデキ。私が連れて行くから10分後に」と言うと一方的に切ってしまった。続いてフィリピンのうう人たちからも次々と連絡が入る。やはりこうした国の人は狂犬病の危険性をよく認識しているのだ。だから急がなければいけないことを承知しているのだ。

 

 

村の診療所へ行き、噛まれた場所を石鹸で洗い消毒をした後、お尻に注射を打った。注射は後4回3日後7日後14日後21日後に打たなければならない。その度にお尻をだすのかと思うとやりきれないと思ったけれど次回からは腕でいいそうだ。

 

 

旅に出る前にたくさんの注射を打ったけれどまさか役にたつとは思いもしなかった。ともあれ今回はとてもいい経験。まだ1回目の注射を打っただけだから果たして無事に済むものかどうかすらわからないけれど、こうした国では運がすべてだと思っている僕は淡々とした気持ちのまま。お尻の傷がズキズキしてはいるけれどいたって元気に過ごしている。

 

 

 

僕を助けてくれた勇敢なカフェ。彼には骨つきの牛肉を買ってあげた。美味しそうに頬張るカフェを見つめて物欲しそうにする幸代。飼い主を助けもしない犬に肉はあげないのだ。

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