わからん

なぜそんなことを聞くのかわからんのです。そんな質問を日本でしますか?旅に出れた喜びと高揚したした気持ちのままでおかしくなってしまわれたのですか?赤の他人に根掘り葉掘り昔のことを聞いてどうするのです。その人の過去を知ることでその人が悪人かどうかはかっているのでしょうか。電車の中で気軽に隣の人と話さないあなたがなぜ?プライベートに立ち入られることを極端に嫌い近所付き合いもしないあなたがなぜ?そんなことをお聞きになるのか僕にはとんとわからないのです。

 

「なにかお手伝いすることはありますか?」
「いいえ、大丈夫ですよ」
「でも〜・・・」
「大丈夫です」

食事を作るとき、皿を洗うときよくするこの会話。この会話をするとき、僕は頭に疑問が湧き出して来ます。日本の民宿で食事作りの手伝いをするなんて聞いたことがありません。デニーズで食べ終わった後に皿を下げ、洗うなど誰がしているのでしょう。
なんでそんなことを言い出すのだろう。僕は素直にそれを聞いてみることがあります。返ってくる答えは「だってここは違うじゃないですか」「ここはもっと宿の人との距離が近いから」と言われます。僕の混乱はますます混迷を極めます。一体何が違うというのか、こちらの気持ちも考えず、距離を勝手に詰められてしまう僕は「あ〜たいへんだぁ、落ち着け〜落ち着け〜」とその場から逃げ出してしまいたくなるのです。

 

「料理が好きなんですかぁ」「仕事でされていたんですかぁ」「一緒に食べましょうよー」これまた聞かれて困る質問。料理が好きかどうかなどと思ったこともないのです。社会に出る前から自分の食べる物を作るなんて当たり前のこと。それが好きかどうかなど考えてもみませんでした。毎朝歯を磨くのと同じ、毎日うんこをするのと同じです。うんこするのが好きなんですかぁとは聞かないのです。仕事でしていなければ料理はうまくならないのでしょうか。それとも仕事で料理をしていなかった奴の料理など食えん、資格を持っているのか、経歴を教えろ、自己批判しろ、総括だと言われてどこかの山荘でリンチされてしまうのではないかしらと消えていなくなりたくなるのです。
ホテルのコックは食事を一緒にお客さんと食べません。ラーメン屋の店主もお客と一緒にラーメンをすすらないのです。一人でレストランに行ったとき一緒に食べてくださいと言いますか?言わないのです。見たこともないのです。それがなぜ。僕にはわからないのです。

 

こんなときどう答えればいいのでしょうか。不意打ちのように振られる質問。お年頃の男女。遅れそうで焦りが出始めている彼らの話は恋の話。僕にはとっくに関係のなくなった遠い昔の話です。聞いていてじれったくなるような、甘酸っぱいお話をされているときに「どおなんですかぁ」といきなり振られる質問。こちらの気持ちをわかっていただけないのです。本当のことを言えば角が立ちます。嘘をついてもいずれはわかってしまうこと。それがわからないからこうした与太話は楽しいものなのです。僕は「そうですねぇ、好きにされればいいのでは」とそっけなく答えます。途端に待っていましたとばかりに「ア〜全然女心がわかっていないんですねぇ〜」とかわいそうなバカタレを見るかのような目で「ダメですよーそんなんじゃ」と容赦ない追い討ちをかけられるのです。もちろん僕だってそんな心無い言葉に対する必殺技がないわけではないのです。例えば「そうですねぇ〜わかっていたら離婚なんてしなかったかもしれませんねぇ」と遠い目をして答えると、急に相手は押し黙って、辺りに漂うバツの悪い空気感。僕にとってはメタルスライムを一撃で倒した時くらいの爽快感があるのですが、まさかお客様に言うわけにもいかないのです。宿として抜いてはいけない伝家の宝刀もあるのです。

 

ホームステイ先のことについて。見学に行ったお客さん。帰って来て「どうでしたか」と声をかける。「これってこのブログに出ていた家族の写真と違うんですけど」と中途半端な質問。僕は一瞬で考えを巡らし誰のブログだ?何が知りたいのだ?どう答えればいいのだろう?と急ぎ整理しますが口から出るのは「わかりません」の一言。「わか」まで言っている時から言ってはいけない言葉だぞと右脳の右端から警告が出ていますが僕の口は暴走して止まりません。追い討ちが襲って来ます。「これが写真なんですけどぉ」とスマホを突き出し、僕にこれ見よがしに突きつけてくるのです。心の声は「このご家族を僕は存じ上げておりません。なぜ変わってしまったのかも承知していません。あなたは僕がこの村の住人を全て知っているとお思いですか。日本でそんな質問を旅館の人に聞きますか」と言っています。
歳をとってよかったことの一つにそんな時でも穏やかに微笑んでやり過ごしつつ、これ以上は何も言わないよオーラが出せるんです。でも後味の悪い空気は僕が作ったものではないのです。

 

見知らぬ外国の地で日本人同士という親近感からくるものなのかわかりませんが、日本であればしないようなことをされては困るのです。コンビニに入って「ヤァ、コンニチハ、チョウシハドォ」などと挨拶しますか?そんなことをしたら一発でカラーボールを投げつけられてしまいますよ。
通りであった見知らぬ人に「ドコカラキマシタカ」「オナマエハナンデスカ」と聞かれていぶかしむのではないですか?それがなぜ簡単に受け答えしてしまうのか。

 

思えば不思議なことばかり。わからないのです。

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