宿の再開にあたって

今回のことは宿を始めた時からどこかで感じていたことなんです。僕も旅をしている時、色々なタイプの宿に泊まって来ました。いい宿、悪い宿、普通の宿。ナンキン虫に刺されたり、見るも無残なキッチンで作る食事、一晩中騒ぐ宿に泊まってきました。印象に残る宿はやはりキレイな宿でした。新しくはないし、備品も補修をして大切に使っているのがわかる宿。そんな宿に僕はとても親近感を持ってきました。密閉性の低いガラス窓、隙間の空いた木枠、ガタピシ音のするドア。堅牢だけが取り柄のベッド。でもその一つ一つに息吹を感じて、宿が歩んできた年月を感じさせてくれるのです。大切に扱われてきたものだけが持つ風格のような美しさは、そこで働く人の思いと相まってとてもいい宿になったのだということはすぐにわかりました。きっと毎日、きちんきちんと手入れを欠かさずにきたのでしょう。清潔と簡単に言うこととは少し違うけれど泊まっていて不快感を感じない宿といえばいいのかもしれません。もし僕が宿をやるとしたらそんな宿にしたいと思いました。

 

宿を引継ぐ時、当たり前のことには手を抜きたくないと決めたのです。でもこれって当たり前すぎるんです。特に日本は全てが綺麗で快適ですから物のないサンペドロでは特別なことでも、それを感じてもらえることは難しかったようです。ブロックを積み上げた上にコンクリにペトリと塗った建物は所々いびつで、隙間やグラつきも多く、お世辞にも立派な建物とは言えません。でも、この建物にはそんなに年月を経ていないにもかかわらず、そこかしこには大切に手入れをされてきた痕跡がありました。風格というにはまだだけれど、近い将来きっといい宿の雰囲気を醸し出すことができると思っていました。ただし、お客さんの感じ方は様々で満足いただけない人もいたのは確かです。水が少ない、虫が出る、建付が悪いと言われることがありました。タンクを増設し、簡単な手直しで対応するに留めていましたが僕の感覚はすでにグアテマラのもの、良くて北米の安宿が基準となっています。日本のクオリティーと比べられてはいくら頑張っても勝てるわけもありません。日本の感覚を持ち込まれてしまったのには僕にも落ち度があったのです。

 

ひどい宿に泊まった経験を持たない旅行者の人にも利用してもらえることはとてもいいことだと思っています。そういったお客様にも不満を抱えずに過ごしてもらえる宿でありたいと考えています。しかし、そうは言ってもここはグアテマラ。できることには限界があります。それでも苦言を言われればできる限り対応したいと思うのです。でも、同時にそれを承知でこの国に来ているのでは?と思うこともしばしば、公衆衛生に対する意識は低く、犯罪率は比べ物にならないほど高いでしょう。そうした国に来て、日本と同じ快適性と安全性を求める人はそれなりの旅行の仕方があるのだと思っていました。
ところが今や地球には距離や時間は昔ほどなくなっていました。気軽に来れる場所となったサンペドロ。当然そうした人にきちんと向き合って行かないといけないんだと反省しています。
宿にある問題点は分かっていました。それを解決するために、そして僕自身のスタンスを考えるために時間をいただきました。隙間をシリコンでふさぎ、シリコンでふさぐことができない隙間には端材を入れ込みました。ドア枠の歪みによる鍵の不具合は枠を削り、現状の反りに合うようにしました。結果、問題は解決しましたが、ドアの周りにはおよそ似合わない白いシリコンの縁取りが目立ち、歪んだドア枠には切り欠きが無様に現れました。機能性を求めて大切な何かを失ってしまったようなちょっと複雑な気持ちです。

 

部屋の消毒は漂白剤の臭い、殺虫剤の臭いをもたらしただけです。確かに虫は部屋に入らなくなりました。隙間を埋めた効果もあるとは思いますが、こんな自然豊かな場所で、虫すら入って来ないような部屋に泊まることが果たしてどうなのかと思ってしまいます。シンガポールのセントーサ島に行った時、島内に漂う漂白剤の臭いと虫一匹見ることなく、鳥のさえずりさえも聞こえないその場所に僕は不快感を感じました。それと同じことをまさか自分がしてしまうとは。
ともあれ宿は再開後、すぐに満室になってしまいました。宿主がこれほどダメな宿なのだと言っているにもかかわらず、予約が入る不思議。ほかで食べるよりマシと言われた食事も相変わらず。自炊を勧めても、する人が現れないことにますます僕の頭は混乱を極めています。
そして、ついに女中さん?中居さん?召使い?ムチャチャ?を二人雇いました。部屋の清掃にかける時間は乾燥などの時間を入れれば1部屋5時間もかかるようになりました。天井から床まで1回1回清掃、消毒するため僕一人ではとてもまかないきれなくなってしまったためです。彼女たちは言います。「漂白剤の匂いは良くないわ、洗剤に変えたらヒデキ?臭いが強すぎるわよ」僕は彼女たちに「日本人はこの臭いが大好きなんだ、変わってるだろ、きっと病院をホテルにしたら日本人ですぐに満室なるよ」と言うとびっくりした顔をしてヒデキは冗談好きだと笑っています。もう少しこの宿で働いたあと、この宿についてどう思うか、日本人についてどう感じているかを聞いてみたいものです。

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