有朋自遠方来 不亦楽

「友人が遠方から訪ねてきてくれるのは、こんなうれしいことはない」忘れていたフレーズがふと蘇ってちょっと驚く。昼過ぎアンリとモモコが宿に到着した。2ヶ月ぶりの再会。南米を旅して帰国を前に再び来てくれたのできっと脳が嬉しくて活性化したのではないかしら。久しぶりにあう彼女たちは少し旅人らしさが増して、無駄がなくなったような感じがする。宿の雰囲気が変わって旅人の宿らしさも増した。
薄井幸代も覚えていて成長ぶりを自慢するように得意な顔になっているが、今朝もウンコを漏らしたことはすっかり忘れてしまっている。それでもももちゃんは「いい子になったね〜」と褒めてくれるので毎日見ている僕にはわからないところが良くなっているのだろう。この犬の顔は愛嬌があって、ちょっと頼りないところが女性客の心を掴んでいる。人間であればそうした女性は同性からわざとらしいとか私はあんな風には出来ないなどと言われ疎ましがられのに、どうして犬には言わないのであろうかとぼんやり考えていると、幸代を擬人化している自分に気がついて、しおれた気分になった。

サナエさんは彼女たちが食事の準備の手伝いをしたり、皿を洗っているのを見てちょっと驚いている。僕はお客さんには皿を洗わせないのだけれど、それをまるで一番長く泊まっている客のように淀みなく動いているのを不思議そうに見ている。アンリとモモコは僕が1を言えば10をわかっていて夕食はほぼ彼女たちだけで作ってしまった。あれ、そんなにあなたたち出来たかしらと思っていると、旅の間、随分と自分たちで作っていたのだという。2ヶ月でこんなにも女子力が上がるものなのだと嬉しくなってしまった。

サナエさんは来週から管理人をやってもらうことになった女性で、野口さん(仮称)とはタイプの違うおとなしい人。彼女を管理人に選んだのはカフェが彼女となら散歩に行くから。このところカフェはお客さんとはとんと散歩に出かけなくなってしまって、出かけても途中で引き返してきて、いつのまにか僕の後ろでちょこんと座っている。どこに行くにもついてきて必ず僕が見えるところにいることが多い。メルカドに散歩に行った時に僕を見失うことがあって、そんな時のカフェのあたふたと慌てる様子はとても可愛らしいが、カフェの気持ちを考えるとちょっとかわいそうなほど焦って見える。そんなカフェがサナエさんとは一緒に散歩に行くので、きっと信頼できる女性に違いない。僕がメキシコにビザクリ行っている間カフェと幸代を任せられる人が見つかってよかった。

 
メキシコに住む書道の巨匠がやって来て泊まられた。やはり芸術家は少し風変わりなところがあって面白い。この巨匠はナガレの時からのお得意様であるらしい。僕は知らなかったけれど、隣のネグラは彼のお気に入りらしい。すでに僕はネグラを追い出してしまったので、巨匠は隣の家までネグラに会いに行かれている。臭さとノミで追い出したネグラだけれど、こうして遠方より友人が来るのはやはり嬉しいのであろう。巨匠も目をキラキラとさせて覚えていてくれたと喜ばれている。なにより。

来て早々に朝ごはんは食べることができない、でもナガレの時は昼ごはんにすることができた。そうしてくれと言われる。でも宿が変わってからはコンチネンタルスタイルの朝食としているので作り置きはできないのでとやんわりお断りしたが、再びナガレの時はできたと言われるので作ることとなってしまった。
後から作る時間は12時から12時半の間にと言われこれまた指定されたので僕はそれまでにメルカドやらその他の買い出しを済ませなければならなくなった。

巨匠はお腹が弱く、下痢が止まらないという。水が悪いのではないか、食が合わないのではないかと聞かれるので困ってしまったが、「水はナガレの時から同じ業者でございます、もし心配であれば一度ペットボトルの水を購入なさってはいかがでしょうか」「お食事も最大限気を使っておりますが、もしお口に合わないようでしたらご注文をひかていただいても問題ありません。自炊も外食もできるようになっております」と返答する。すると水は煮沸するから大丈夫だという。ヤカンで水を沸かしてペットボトルに移し替えているが、それを見ていた娘があのペットボトルを洗った方がいいのではないかとそっと僕に耳打ちをする。確かにそうだと思ったが、僕はお客様の望まれるままにとそっとたしなめた。そして今日の食事はいらないと言われる。ちょっとホッとした気持ちになる。たたみかけるように薬があれば治る。普段飲まないので飲めば必ず効くのだと言われる。ちょうど先ほどの娘がいらない薬があるので置いて行くと宿にくれた薬を見ながら言われる。欲しいのだと思い、どうぞと勧めると「4回飲めば効く」と言って6回分を持って行かれた。

夕食時、すっかり準備を終えた頃、巨匠はひょっこり現れてあの薬は効いた、すぐに治ったと喜んでいる。そしてそそくさとテーブルについた。今日の食事はいらないのではないかしらと思っていたのだが、どうやら薬の効き目が良くて、食べることに決まったらしい。僕の分をそっと出し、ことなきを得た。先ほどの娘がまたそっと僕に目を配らせるが、僕もまたそっと目でたしなめておいた。

 
夕食後、雑談の中でブログのことや写真のことが話題になった。巨匠も以前はブログを書かれ、写真をあげておられたけれど人の目線をきにするようになって自分を失ってしまわれたのでやめたと言われる。僕は心の中で、僕のブログは人に読まれることを前提としているけれど僕の見たまま、感じたことを書いています。人様のことなど気にしたことがございませんし、とうの昔に自分を見失ってからは自分のことすら気にしなくなっておりますと思いながらこの記事を書こうと決めた。
宿に来るお客様たちはとても楽しい方ばかり、自分の了見の狭さをひしひしと感じています。これまで気に合わない人とは向き合うことなく暮らしてくることができたけれども、こうした商売を始めてからはきちんと向き合うことにしています。それは僕にとってもとてもいいことで、今更ながらに気がつくことが多々あって、とても刺激的でもあるのです。間違いなくこうした旅人やお客様が僕の人生に影響を与えています。もし僕がここで一人で暮らしていたとしたら、何か新しいことをしようなどと考えもしないでしょう。自分の人生は自分のものではあるけれど、確かに人様によって作られているのだと思います。

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