薄井幸代 殺処分

一進一退が続く薄井幸代。相変わらず脱走癖、不服従が治りません。先日、朝の散歩に出かけた時のこと、このところよく付いてくるので試しによく逃げ出す通りでも自由に歩かせることにしました。案の定、脱走。しかもこちらの様子を伺いながら、承知の上での脱走でした。一度は家の前に来ましたが、僕に気がつくと再び逃げて行きます。怒られることを知っているのです。

これまで僕はきつく叱って来ましたが、どこかに甘さがあったのです。それを幸代は見抜いていました。どうせご飯はくれるんだ、どうせベッドに寝かせてくれるんだと見透かしていたのでしょう。それが幸代の暴走を招くことになってしまったのです。

夜、夕ご飯の時に帰って来た幸代。僕は幸代の首輪を外し、食事を与えません。自炊犬に降格です。その代わり僕は幸代を叱りません。幸代の面倒をよくみてくれる小嶋さん夫妻も相手にしません。幸代は台所に入ってこようとしますが僕は許しません。何回かそんなことを繰り返し、諦めた幸代は再び外に出て行きました。

次の日の朝がた。まだ暗いうちに僕が部屋から出ると唸り声をあげて威嚇するのが聞こえました。幸代がベッドから逃げ、こちらを見ています。廊下の電気をつけると唸り声をあげながら歯をむき出しにしていました。
幸代は僕との主従関係を断ち切ったのだとすぐにわかりました。僕は試しにご飯を出してみましたが、全く近づきもせず、威嚇を続けています。僕が近づくと少し逃げ、こちらの様子を伺っています。

おそらく寝床とご飯に対しては自分の所有だと勘違いした幸代は僕がそれを奪おうとする対象にしか見えないのでしょう。2ヶ月間頑張って来たのがたった半日でご破算となった瞬間でした。幸代は唸り声を残して去って行きました。

朝、起きて来た小嶋さんに僕はことの顛末を話しました。心配する小嶋さん。でも僕はおそらく幸代はもう制御不能です。エサと寝床の魅力だけで、ここに来るようになるでしょう。しかもそれは夜だけです。お客さんを威嚇したり、噛み付くことの可能性を考えるとこのままにすることはできません。幸代は僕のところには来ないでしょう。だから今夜までに帰らなければ餌に毒を入れて殺処分します。と言いました。ルミさんは幸代を見つけますと言いました。

小嶋さん夫妻はとても幸代を可愛がってくれます。まるで我が子のように優しく接してくれます。僕が幸代を叱れるのも彼らの存在があればこそ、夜はご夫妻の部屋で寝かせてあげることもしばしばです。奥様のルミさんは本当に優しく、幸代をいつも励ましていました。幸代もルミさんをとても慕っています。そんなルミさんに幸代を処分すると言わなければならないことはとても辛いことでした。小島さんご夫妻は幸代を捜しにいきました。もし幸代を小島さんたちが捕まえて来たら僕は幸代と真剣に向かい合わなければとならないと思いました。犬は主従関係を明確に持つ動物です。一旦、自分よりも下だと思われたらもう言うことを聞かなくなってしまいます。これでダメなら幸代は殺さないまでもどこか遠くに捨てる覚悟を決めました。

しばらくして、小島さんが幸代を連れて帰って来ました。幸代はこのところ小島さんに対しても警戒して逃げてしまうことがあったのに、今回はすぐに飛びついて来たそうです。おそらく帰りたかったのだろうと言います。でも幸代は僕の方は全く見ようともしません。小島さんたちがここに泊まっている間に改善しなければ殺しますと僕は言いました。そして幸代を受け取り思いっきりぶん殴りました。幸代は歯をむき出し抵抗します。僕は自分の手が噛まれるのもかまわず徹底的に殴りつけました。幸代の抵抗がなくなり悲鳴に変わり失禁、脱糞しています。僕はかまわず殴り続け幸代は泡を吹いて失神しました。

気がついた幸代は怯えきって、抵抗する気力もないようですが僕は首輪を付け紐をつなぎ僕の足元に座らせます。幸代はすぐに逃げ出そうとしますが僕は綱を引っ張り足元に引き寄せ再び殴りつけました。何度も逃げようとする幸代。僕は容赦しません。もうやめてくれとワンワン言う幸代。悲鳴では足りないと感じたのでしょう。ワンワンと吠えるように懇願しています。かまわず殴りつけると最後には諦めたのか足元に力なく寝転がりました。

僕はこの時点でもまだ幸代を処分するつもりでいました。でも小島さん夫妻が幸代を案じる姿に3日間は様子を見ます。それでダメなら幸代は殺しますと伝えました。夜は小島さん夫妻と寝ることになった幸代。汚いままでは申し訳ないので風呂に入れます。一見、従順な幸代は風呂上がりに隙をみて脱走します。小島さんが慌てて幸代を追いかけますが幸代は庭から外に出てしまいました。その時、隣の家のネグラという犬が幸代を威嚇し、壁に追い詰めます。カフェもあとを追い、ネグラと挟み撃ちにして幸代を動けないようにしています。そこへ小島さんが追いつくとカフェは少し下がって幸代がそちらに行くように仕向けています。幸代は小島さんのところへ戻りました。

ことの始終を3階から見ていた僕は驚きました。カフェは最近、幸代の面倒をよく見るようになっていて、色々と教え込んでいるようなフシがありました。怒られた後もよくかまっていて、脱走する時も追いかけて引き止めているように見えたのです。まさかと思っていいましたが、明らかに今回は幸代を助けるために逃げ道を絶ったとしか見えなかったのです。そしてネグラ。彼女も明らかに幸代の逃げ道を塞いでいました。まるで殺されることがわかっていてそれを防ごうとするかのような行動でした。そういえば近所の犬もなんとなく幸代をたしなめているような感じはあったのです。小島さんからもそんな話を聞いていましたがまさかとは思っていました。

戻って来た幸代を僕は容赦なく殴りつけました。今度は幸代は抵抗することはありませんでした。目の色が変わりました。僕は綱をつけると大人しくついて来ます。いつもの場所に繋がれた幸代。僕が近づくと腹を見せて服従のポーズをとっています。何回か繰り返しましたが毎回、腹を出しています。僕は試しに少し離れたところから来いと言うと最初こそ動きませんでしたが、何回か繰り返すうちにやってくるようになりました。翌日はさらによくなっています。僕の手を舐め尻尾を振っています。

これまでの不服従が嘘のように治っています。綱を解いて庭に出しても脱走しません。散歩に連れていき、呼べば戻って来るようになっています。まだ時折危なっかしい感じはしますが、見違えるようになった幸代。小島さんたちもびっくりしています。そして3日間が過ぎました。驚くほどの更生を見せる幸代。脱走、拾い食い、不服従がまったく見られません。毎晩小島さんと一緒に寝て幸代も幸せそうにしています。

そして、小島さん夫妻の出発の日。早朝、夫妻を見送りに桟橋へと向かいます。幸代もカフェも一緒です。ボートが出ていきました。僕らは宿へ帰ります。坂を登りきったところで幸代がいないことに気がつきました。またかと思い、カフェと一緒に捜しに戻りますがどこにもいません。桟橋のところまで戻って来た時、僕は幸代が桟橋の上でしゃがんでいるのを見つけました。幸代は小島さんたちが去った方角をずっと見ています。その後ろ姿の寂しそうなこと。僕とカフェは少し離れたベンチに腰掛けて幸代を待ちました。カフェが幸代を迎えにいきます。気がついた幸代は僕の方へ飛び跳ねながら戻って来ました。

宿の手前でいつも幸代が逃げ込む山があります。普段は綱をつけていくのですがこの日はフリーで幸代を試しました。案の定、幸代は山に登って行ってしまいます。しまったと思いました。ところが幸代の様子はいつもと違います。ゆっくりとした足取りであちこちの匂いを嗅いでいます。僕は幸代を刺激しないようにゆっくりとあとを追いました。幸代はどうやらメイさんルミさんの匂いを捜しているようです。時折、僕の方を見やり、遠くを見ています。きっといつも助けに来てくれたメイさんが今日も来てくれるとでも思っているようです。幸代と声をかけると僕の元へ戻って来てしゃがみこみます。
午後、掃除をしていて幸代がいないことに気がつきました。脱走かと思いきや、幸代は小島さんたちの部屋の前で寝ていました。
土壇場で殺処分を回避した幸代。どうにも手のかかるバカ犬ですが、生き物を飼うというのはこういうことなのでしょう。それにしてもこれほど真剣に畜生に向き合うことになろうとは思いもしませんでした。正直、幸代がいなければどれだけ楽になるか分かりません。下の世話のために早起き、寝る前の散歩など1日に4回は散歩に行かなければなりません。幸代がこの宿に来て2ヶ月。毎日のように問題を起こす幸代がこのままで済むわけがないのです。このバカ犬、早速今夜も夜の散歩の途中で脱走しました。果たして今後幸代がどうなっていくのか分かりませんが真の悪さと忘れっぽさではピカイチの幸代、まだまだ当分の間トラブル続きの予感がします。

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