お客様との距離感は

テラスでベンチに腰掛けて、庭を眺めていると。「ツジさん、もう少しお客さんとの距離を詰めてもいいのではと思うんですよね」と言われした。僕は「えーそうですねぇ、考えています」と答えました。

まったくもってその通りなのです。僕は今、ちょっと意識してお客様と距離を取るようにしています。その理由は二つ。

公平性を保ちたいのです
特定のお客様と仲良くしすぎることで、そうでないお客様に居心地の悪さを感じさせてしまうのではないかと思っています。
すべての人が気さくな訳ではないのです。宿として求められるサービスを提供するためには公平性はとても大切なことです。僕に対して話しにくいお客様もいるでしょう。長く滞在されているお客様が多い時ほどそうしたことに気をつけなければいけないと思うのです。せっかくkamomosiに来ていただいたお客様には宿泊されている旅人が作る雰囲気もさることながらこの宿の良さというか、僕が作ろうとしている雰囲気を味わっていただきたいのです。でも僕の体は一つ。いっぺんにすべてのお客様を相手にすることは難しいのです。だから僕はいつも気が配れるように一定の距離を置いています。
存在感を消し去りたいのです
言わずもがなですが、僕がしゃしゃり出てはせっかくの新しい出会いが盛り上がらないと考えています。お客様同士の会話の邪魔にならない距離で、ちょっとしたサービスをさりげなく提供できるのがいいのです。宿でありながら主人を気にせず、すべてのサービスがまるで当たり前のように提供できることがいいのです。例えば通勤電車、毎日、同じ時間に決まった電車がやってきて目的地に運んでくれます。雨の日も、風の日も、暑い日も、寒い日も大概何も心配することなく電車に乗る僕ら、学校や会社についても「あ〜今日は電車が来てくれたおかげで無事に来れた」とは考えません。まるでそれが当たり前であるかのように感じているのです。そんな感じで僕の存在感が無いような、すべてが当たり前のように何も感じない、そんな宿にしたいのです。

 

僕の対応はよそよそしいと野口さん(仮称)から言われます。丁寧な応対を心がけると「それがいけない」「感じが悪い」と言われます。「居心地の悪い宿だ」と言われます。
食後の食器洗いを基本的にお客様にさせません。皆さん申し訳なさそうにするのです。頑なに断る僕にトモさんも「もう少しお願いしてもいいのに」と言ってくれます。僕は「ファミレスで皿を洗いましょうかとは言わないでしょ」「レストランで皿を厨房に返しに行かないでしょ」というと、聞いていた野口さん(仮称)は「また言ってるよ、まったくバカじゃないの」と半ば呆れています。
さらに僕は夕食時にお客様と食事を共にすることは非常に稀です。キッチンの端っこが僕の指定席。出した料理の味を一通り確かめるために立ったまま食べるのがお気に入り。ずっと一人でいたせいかどうも大勢で食事をするのが苦手です。あの和気藹々と楽しむ輪の中に入って行きにくいのです。僕は古いのか、食事中に話をすることがあまりいいことだとは思っていません。まして歌いながら食べるなんて僕には到底無理なのです。若いお客様は音楽をかけながら歌って踊ってととても賑やかに食事をされるのです。僕がその中に入ることで、せっかくの盛り上がりに水をさしてしまうのではないかと感じてしまうのです。野口さん(仮称)がいつも気を使って会話を盛り上げてくれるので僕はなおさら必要なくなるので本当に助かっています。

 

野口さん(仮称)に「好きにすれば」と軽蔑の眼差しで見られてもできないことはできません。彼女に言われていることはわかるのです。もっとフレンドリーに応対した方がいいという気持ちからでしょう。他のお客様にも言われます。相手をみて応対することも大切なことですが、相手は不特定多数の日本人。よくよく気をつけなければいけないのです。だから僕はついつい臆病になるのです。
やることなすこと手探り状態ですが、楽しんでやれていることはいいことです。意見や助言は想定の範囲。それもそのはず、すでに僕は彼らの年齢を通り越して来ているのです。人が年齢ごとに感じることはおんなじなのだなぁと感じます。焼き鳥のカバさんのところに愚痴を言いに行くと、カバさん決まって「あら〜それは大変ですねぇ」とニコニコしながら言ってくれます。きっと「そんなことまったく気にする必要もないんですよ、自分の好きにやっていればいいじゃありませんか」と言われてる気がして、野口さん(仮称)にも生返事で濁してしまうことにしています。野口さん(仮称)は「ちょっと聞いてるの、まったく老後のおじいさんみたい」と憎まれ口を叩いています。僕は対岸の村の火事をいつもより少し背中を丸めて眺め、聞こえないふりをしています。

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