女の情念

四谷怪談や番町皿屋敷でお岩やお菊がうらめしそうに出てくるシーン、きまって長い髪が顔半分を覆うようにだらりと垂れ下がっていて、その気味の悪さといったらたまったものではない。

日本人宿のおじさんオーナーたちとそこで管理人をしている女の子は女子が来ないかなぁといつも言っているが理解できない。部屋の掃除に使う箒に絡みつく長い髪。掃いても掃いてもどこかしらから出て来てきて、いくら掃除してもなくならない。浴室の床に散らばりウネウネとくねった髪の取れないこと、極め付けは排水口の蓋を取った時に現れるべっとりと粘ついた髪。引っ張ろうがくるくると回して絡め取ろうとしようが執拗な抵抗を見せてしがみついている。便器を掃除しているとどこから現れたのか便座にへばりついている髪。ふき取って蓋を閉めるとさっきまでなかったはずの場所に付いている。どこにいたのかとまた拭き取る。ふと不安に駆られて再び便座を上げるとまるで僕をあざ笑うかのようにまた付いている。
廊下には綿ぼこりとともに植木鉢の角にたまり、階段の角の取りにくい場所にごっそりとたまっている。床を水で流していっぺんに片付けてしまおうと大量に水を撒くけれど、モップで水気を拭き取るとき視界の片隅に、まるで見てはいけないもののようにタイルにへばりつきこちらの隙をついて逃れようとする執念の塊。

こうしたとき僕は女の髪には情念のような、執念のような不気味さを感じてブルっとしてしまう。夜に部屋からブンブンと聞こえるドライヤの音、きっとバサバサと抜ける髪が散らばっているのだと思うとブレイカーを落としてやろうかしらと意地悪な気持ちが湧き上がり、朝テラスで髪を手で梳きながらまとわりついた髪をすました顔でフッと吹くアラサー女を見るとお前のその安っぽい髪のために苦しめられている者の怨念を思い知れと言ってやりたくなる。あーいっそ坊主割引や女子禁制の男子の花園的な宿に方向転換しようかしらと思案してしまうのです。

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女の情念」への2件のフィードバック

    1. HIDEKI 投稿作成者

      あおきさん
      この記事、結構人気があります。特に女性から面白いと言われることが多いんです。それを聞く僕の気持ちは複雑で、毎日髪の毛と格闘している僕の身にもなってくれと腹立たしくも諦めと絶望感に苛まされているのです。排水溝に引っかかる髪の毛をたわしをクルクル回して固めてビキビキと張り付くそれをむしる気持ち悪さったら。女の視点を教えてくだされ笑

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