日々雑思 近所の話

寄合に出る

ここに住むにあたってご近所さんとの付き合いは避けて通ることができない大切なこと。まずは近隣住民の名前を覚えることから始まって、挨拶回りを済ませる。田舎では人の目がどこにあるかわかったものではないので、真っ当にやっていかないといけない。もともと名前と顔を覚えるのが苦手なので、よく似た顔の村人をなかなか覚えることができない。
宿の横の道は、雨が降ると川になって歩けなくなってしまう。元々が道なのか川なのかもはっきりしないのだけれど、人がすれ違うことができるほどの細道。それを拡張する計画が以前からあったようで、いよいよ工事に取り掛かるという。通り沿いの家々の人が一堂に集まって部落会議となる。

おじさんの話

いよいよ、この道を広げることができそうだ。神に感謝してアーメン。ところで工事が始まる前に水のパイプを通したい家は工事が始まる前に終わらせるように、工事が終わってからでは二度手間になる。電柱が6本あるけれど、それを移動しなくてはならない。1本につき5000ケツアレスかかるということ。細道の入り口にあるセバスチャン大爺の家の壁をすこしばかり引っ込めないと機械が入れない、でもそれには12000ケツアレスかかる。みんなで出し合ってはどうだ。せっかく予算がついたので早く工事を始めないと他に予算を取られてしまう。工事が終わればトゥクトゥクがここまで入ってこれる。マキも重たいが運ぶ距離がラクになる。

おじさんが話し終わるとトロおじが「俺の家も土地を削らなくてはいけない。家も退けなくてはならないけれど、それは俺が自分でやる。金はいらない。」と口を切った。司会のおじさんは待ってましたとばかりに皆に拍手を求めた。トロおじ、まんざらでもなさそうな顔。向かいのおじ(名前は知らない)は教会の牧師。私のところは直接道につながらないけれど、道ができることはみんなの願いだからすこしずつお金を出すのは神さまも喜んでくれるはずです。アーメン。大向こうからおばばが私に言わせろと言って、話し出す。あれこれと文句を言っているようだけれども現地語で話すのでわからない。それでもおじさんたちのうんざりした顔を見るところではいい話でないことはわかった。おじさんたちは「ありがとう。ありがとう。他に意見はないか」と勝手に話を遮って他の人に話を仕向けた。大工のパブロが「12000ケツアレスは高すぎる。もっと俺なら安くやる。あそこには柱がないし、屋根のことも考えなくていいのだからもっと安くできる。12000ケツアレスを親戚一堂で出すのは構わないけれどもっと安くしないといけない」とまともなことを言うと周りもそうだそうだと賛同する。

痛いところを突かれたおじさんはちょっと困った様子を見せたが、安くすることはいいことだけれど、道を作ることが肝心でセバスチャンの家はどうしても最初にやらないといけないと話をそらせ、「他の意見の人は」と言った。若い衆が手をあげて「電柱だって高すぎる。市役所にいえばなんとかなるはずだ」とたたみかけた。電柱は道の真ん中に立っていてそのままにしてはトゥクトゥクが入ってこられない。おじさんは電柱のことはとりあえず保留にして言わないようにしておけば良いと言ったけれども若者は「もっと安くできる。他の道をやったときだって市役所がやってくれた。そんなに高くはならないはずだ」と食い下がった。おじさんたち三人は何かヒソヒソと話していた。やにわに口を開き「今日はアミーゴのススムとヒデキが来ているからスペイン語で話しましょう」とこちらを向いて言う。

どうにも話は堂々巡り気味。難しい話でよくわからないが想像すると、おじさんたちは大きなお金の動くこのプロジェクトにうまく入り込んでちょっと私腹を肥やそうとしているような気がしてならない。グアテマラ人は金にがめついところがあるので、よくよく注意して話さなければいけない。皆もそれにそれとなく気がついていて自分だけはずるい、私にも美味しい話を頂戴なと言った気配がある気もする。そのうち僕にもこうしたときは数千ケツアレスの寄付が必要だなどと言われて困らないようにしないといけない。

隣家セバスチャン

セバスチャンはどことなく怪しい。ぜんたい信用のならない顔をしている。嫁の父親が大爺なのでちょっと得意になっているところがあるけれども、小心者とみた。夜、「ヒデキ」「・・・」「ヒデキ」と小さな声で囁くように呼ぶ。「タバコをくれアミーゴ」と臆面もなく言ってくる。僕は「ないよ」と言ってそれきり。あるとき。「ヒデキ、ヒデキ」と呼んでいる。「何かい?」と聞くと「パンを持っている。美味しいパンだ。買わないか」と言う。僕は「今、パンはいらない」と言っておしまい。あるとき。セバスチャンがこちらの壁に寄りかかっている。庭の草が揺れているのでネグラ(臭い犬)が来ていると思い、覗くとセバスチャンがコソコソとしている。こちらの庭に折った草を捨てている。見られたという顔を一瞬見せたが、何もしてないよと言った顔で照れたように手をあげてエヘラ笑いを見せる。こちらもエヘラ笑いで返しておしまい。

ネグラ

ネグラは真っ黒の犬、足先だけ白い毛があるけれど暗闇ではほどんと見えない。ネグラはいつも宿に入って来てあちこちで寝ている。ご飯をもらいに来る。まるでこの家の犬のように振舞うのはネグラが大爺の犬だから。でも大爺のところでは餌をあまりもらえないと言う。カピカピに乾いたトルティーヤやひどい残飯だけしかもらえない。ここに来ると鳥の骨や美味しい残飯をくれるのでいつもいつもここにいるのだ。ネグラはとっても臭いし、たくさんノミがいて汚い。宿なのだから追い出せばいいのだけれど、大爺の犬だから邪険にできずに困っている。あまりに臭いのでちょっと遠慮してもらうことにして、ネグラには帰っていただくことにした。かなりの年寄りで皆から邪険に扱われるのはかわいそうでもあり、気の毒だけれどお風呂嫌いだという彼女にはここに残る希望はない。

隣のおばさん

お客さんたちは毎晩のようにビールを飲みまくっている。その缶の数はとっても多いので、それに目をつけたおばさんは缶をもらいにやってくる。集めて売るようだ。このおばさんはマキを売ってくれるので、持ちつ持たれつの関係を持っていて仲良くしていかなければいけないのだけれど、新参者の僕に売ってくれるマキの量はとっても少なくて、足元をみられてしまっている。それはこの辺りでは当たり前のことで、今更驚くことでもないのだけれど、あまりに露骨なので墨を飲み込んだような気持ちになってしまう。ススムさんが言うには色々なコラボレーションを持ちかけられると言うことだけれど、しばらくは一方的に損をする覚悟が必要かもしれない。

今日の一言

日に日に緊張感が増してきて、何かしていないとちょっと平常心を保つことができません。庭いじりや洗濯などをやっては紛らわせていますが、まだここはナガレなので遠慮する気持ちもあって複雑なのです。ついこの前まで旅人であったはずなのに、今はちょっと気持ちが変わっていることに気がつきました。常にあれやこれやを考えていて、のんびりしたり楽しむことができずにいます。Casa de Nagare、この人気の宿を引き継ぐことがNagareのファンに知れ渡るにつれ、彼らの残念な気持ちが伝わってくるのです。どうにもスミマセンという気持ちしか湧いてこないのです。切り替えまであと数日。こんな緊張感はいつ以来でしょうか。不安を感じるのはとてもいいことだとわかってはいるけれど、ちょっとモヤモヤしています。

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