カンクンからサンペドロへ

1日目

通いなれたと思っていた道を間違える。地図を確かめるとすでに200キロも走ってしまった。きた道を引き返し、地図を見なかったお前が悪いと、走りながら自分を叱る。向かっていたのはカンペチェという町なのに途中からなぜがチュトマルだと思い込み、逆方向に向かってしまっていた。出かける前までチュトマルからサンクリへ向かうかカンペチェから向かうかを悩んでいたせいだきっと。こういうバカなことをしてしまうのは久しぶりにバイクに乗ったから。こうして、どうでもいいことに慎重さを欠くのでいつも問題を起こしてしまう癖がある。今度は間違えないように慎重にきた道を戻り正しい道へと向かった。

気が焦っていたせいか給油を先延ばしにしているうちに高速道路に入ってしまった。ガソリンのことが心配になって道沿いの売店でガソリンがないかと聞くと10キロちょっと先にスタンドがあるという。走り出してすぐエンジンが止まってしまった。真っ黒な雲が後ろから追いかけてきてあっという間に雨に飲み込まれてしまった。土砂降りの中を300キロもあるバイクを押していく。積載量が多かったので燃費計算を間違えてしまった。ヘルメットを脱ぐことができないので蒸し風呂のようになって汗が滝のように流れて目に入りしみて仕方がない。シールドも曇って前も見えないが、どちらにしても雨なので水滴に映る小さな景色を見ながら進む。少し押しては息を整え、また少し押してはバイクを支える手の震えを収めるために腕をさする。3キロほど言ったところで1台の車が止まって、バックしてきた。車にはメキシコ人の男と女、その子供が乗っていてどうしたのだと訳を聞いてきた。僕はガス欠だと答えると、この先のガソリンスタンドでガソリンを買って持ってきてやると言ってくれた。20分ほど待って戻って来た男からガソリンをもらい、息をつく。車を満タンにできる金額をお礼に渡す。男に頼んで一緒に写真を撮った。雨は上がり気分も晴れた。ガソリンスタンドまで行くと先ほどの家族連れがスタンドの手前で僕が着くのを待っていた。彼らは大きく手を振って走り去っていった。

2日目

山の中を走る道。前にトラックが走っている。中型のトラックに鉄棒の枠が檻のように渡してあって、その中に豚が重なり合って目一杯詰め込まれている。枠に荒い金網を張ってあるトラックもある。豚はピンク色でちっとも汚れていない。鼻先がきゅうと金網に押し付けられてしまっているものや、下積みになって、全然動けないものもある。上の方に積まれていつものも楽ではない。足が踏ん張れないので動けない。車がブレーキをかけて止まると、豚同士少し体の位置がずれるが、やっぱり動きは取れない。豚は1匹も鳴かない。殺されに行くに決まっている。トラックはノロノロと走り、ノロノロと止まる。行き来の車が多い時は、なかなか追い越しもできず、トラックの後ろについて走ることになる。薄ピンクの豚の、小さな光る眼を嫌でも見続けながら走っている。豚のトラックのほかに、鶏のトラックにも合う。鶏が檻から1羽出てしまったが、肢先だけ引っかかって抜けず、逆さまになってバサバサしていたのも見た。その鶏は嘴を開けたまま声を出さない。

首筋に猛烈な痛みを感じて、慌てて手でそこを触ると塊のような感触があって、もぞもぞと動いている。捕まえてみると蜂だ。刺された。アナフィラキシーショックになるのではと恐る恐る運転するが息も苦しくならないしかゆみも来ない。以前蜂に刺されたことがあるので心配したが種類が違うので抗体がなかったのだ。何も起きないのでホッとする。それでも首筋はじんじんと熱い菜箸を押し付けられたような痛みがあって少し腫れている。薬はサンペドロに置いてあるので我慢する。ゲロを吐きそうな不安に駆られてしまう。なんで走っているのに蜂に刺されてしまったのだろう。

町についてコンビニによる。コーヒーとホットドックを買って食べる。ホットドックはスペイン語でペロカリエンテ。熱い犬という。変だ。荷を見るとサンダルが片方ない。落としたのだ。きっとでこぼこ道を走っているうちに振動で落ちてしまったのだと思い悲しくなった。旅を長くしていると物が少しずつ無くなっていく。でも出発前に吟味して揃えた旅の相棒達が消え去っていくのは嫌なこと。不注意からこうしたことになるとなおさらだ。翌日市場に行って安いサンダルをかう。派手で品がない。こういう色の組み合わせをなんで作ってしまうのか。バカに見えてしまうだろうに。それでもここでは仕方無がないし裸足でいるわけにもいかないのでそれを買った。はき心地も悪い。

3日目

ガス欠のこともあったのでもう一度燃費計算をする。一定の回転数で走って距離を燃料の量で割る。やはり思ったより悪くかった。荷が重すぎるからだ。でも今日はほとんど下り坂なのでガソリンはあまり使わない。グアテマラ国境ではバイクの入国に手間取ったのは、どうやら税関が厳しくなったから、モタモタとしているので何故だと聞くと、あの書類がない、この書類が必要だと駄々をこねている。前回と違うじゃないかい。一体どうしちまったんだい。と聞くと僕の顔を覚えていた一人の男が出てきてすぐにやってくれた。一緒にいたメキシコ人とこいつは仕事ができないやつだ。遅いったらありゃしないと文句を言って時間を潰す。ようやく書類ができたので長居は無用とすぐに出発した。

4日目

サンペドロへの下りはなおさらのように道がひどくなっていた。途中家ほどもある大きな岩が2つ、道に転がっているのを見てゾッとする。崩れた崖の上には倒れた樹がそのままになっていて、その上に一人の男が乗ってなた一丁で格闘していた。あんなに大規模な崖崩れなのにたった一人直すとは思えないので樹欲しさに登っているのだろう。さらに下ると道は凸凹さを増している。車もバイクも難儀する。きっと雨季の終わりの大雨でひどいことになったんだ。後に聞いたところによると2、3日前に車が落ちて人が死んだそうだ。夜に酔っ払って運転していて崖から落ちてしまったという。死んだのは二人。

色々とアクシデントに見舞われたけれど、なぜか嫌な気持ちにはならなかった。それはバイクでの旅が楽しいから。きっとバイクでの旅が好きなのだ。バイクを押している時もちっとも嫌な気持ちにならなかったし、道を間違えた時だって不安な気持ちにもならなかった。僕は旅の相棒を信じていたし、うまくいくとわかっていたから。これまでの経験がたくましくさせてくれたのだと思う。それは実体験だけでなく、人から聞いた経験談からわかっていたから。うまくいかなかった旅人はそれを語ることができない。なぜなら彼らは野で果て、骨となってしまったのだから。だから人から聞く話はすべてうまくいったことしか聞かないので、それを覚えておけばいいのだ。今回はそこまでひどい失敗ではなかったし、生きていてこれを書いているのだから旅人は参考にすればよろし。万事うまくいくのです。

無事に宿に着き、二日目の夜。珍しくモヤがかかって方々の家々の灯りが滲んだようにように広がっている。雨になるのかもしれない。寝る時、窓の外にスイッチョみたいな虫が張り付いている。これからしばらくの間、ここで暮らすのだと思うと興奮して、緊張してなかなか寝付くことができなかった。

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カンクンからサンペドロへ」への2件のフィードバック

  1. あおき

    300きろのバイク…わたしには一ミリも動かせません(*_*)すごいなぁ、辻さん最強お父さんですね。
    ガソリン買ってきてくれるなんて優しいー。
    なんか、日本の都会みたいになんでもある便利な所だと
    どーにかなるだろ、誰かどーにかするだろ、で優しくなれないんですかね。私がそうだし。。

    返信
    1. HIDEKI 投稿作成者

      あおきさん
      人の優しさってわからないものですね。僕も路肩に止まっている車がいるときは絶対に近寄りません。それはメキシコ人から注意を受けたからなんです。強盗のリスクを背負ってまで止まる勇気が湧かないのです。それがわかっているだけに車が止まってくれたときは驚きました。ガソリンを買って戻って来てくれるかも半信半疑だった自分がちょっと嫌いになったんです。優しくあるということは難しいですね。
      バイクにはタイヤがついているので、なんとかなるもんです。いい経験になりました。万事ぬかってはいけませんね(笑)

      返信

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