日々雑思 

お好み焼きが食べたい

ロサスのオヤジはここのところ具合が悪く、食事はおかゆやさっぱりしたものしか食べたくないと言っていたので、おかゆやさっぱりしたものばかりを作ってやっていた。普段は肉がないとコクがないと言っていて憎たらしいのだけれど、元気がないのを見るとあわれになって仏心を見せてやっていた。皆と別のものをわざわざ作ってやったので手間をかけてすまなかったとでも思ったのか、買い物に行くのに車に乗せてくれる。次はどこだ、何が欲しいというのでアウトレットに行ってくれ、ウォールマートに行ってくれ、あれが欲しい、これが欲しいとうんとわがままを言ってやっても全部回ってくれた。

今朝、ナオくんと話していると目の前にやってきて今日の昼はお好み焼きが食べたいという。昨日のよるチャーハンだと言っておいたのにすっかりそんなことはなかったかのように、胸を張って柔らかでふわふわしたお好み焼きが食べたいと言い出した。どうしても食べたいのか、チャーハンよりも食べたいのかと聞くと食べたいという。元気になったのだと思った。それは何よりのことではあるけれど、いつも通りに戻ったので、憎らしくなってしまった。

自慢のハエトリラケットを手に持っている。ハエトリラケットはハエ叩きの網に電気が流れる仕組みになっていて、それで触られるとバチバチと焦げてしまうのだ。オヤジはこれの達人で、いつも多くの蠅や蚊を取っている。ひょいとすくい上げるようにラケットを振った刹那、バチバチと音がなってぼとりと黒くなって生気を失った塊が落ちる。そんなものは簡単であろうと客が試みるが誰もうまくいかないのでオヤジは達人だということに認定されている。このラケットはどこで買ったのだと聞くとメキシコシティだという。この辺りでも買えるがここのは電池式だからダメだ。あれは電気が弱いから焦げない。充電式でなくてはならないという。ここで買えるかと聞くとここではダメだシティーじゃなきゃダメだという。これは一度壊れたけど自分で修理した。2個のラケットを一つにくっつけたのだ。ニコイチだなと得意げに笑っていて憎らしい。

そのラケットを持って目の前に飛んでいる蚊を仕留めると、辺りをキョロキョロして次の獲物を探し出した。僕の足に止まっている蠅を見つけると電気を入れて僕の足をかすめながらラケット振った。達人であるから僕は自分の足が黒焦げになることは思っていないのでじっとしていたがしくじってしまった。ちっと舌打ちをしている。オヤジは僕の足に蠅が戻ってくるだろうと思ったので僕の前にしゃがみじっと僕の足を見つめている。気持ち悪い。

案の定、蠅は戻ってきてまた同じところへ止まったので、オヤジは息を殺して眠狂四郎のような流れる動きでラケットを再び振ったがバチと音がしたきり蠅は逃げてしまった。オヤジはあ〜およおよおよとしてたのに逃げられてしもうたと悔しがっている。僕は元気になったな、リハビリが必要だ。今日はお好み焼きにしてやる。ふわふわのお好み焼きにするなら山芋だが、ここにはないのでマヨネーズで代用するがいいかと聞くとウンと言って喜んでいた。

チンドン屋のリズム

共に白塗で、カツラを着けた和装の女。着帽での洋装の男と、渡世人姿で腰刀を差した女の3人。1列になって、それぞれチンドン太鼓、楽士、ゴロスで調子の外れた囃子で街中を練り歩く。「ドン・ドン・ドン・チン」、「ドン・ドン・ドン・ドン・ドン・ドン・ドン・チン」一行は時々立ち止まってひとしきり路上に人が集まると男が「東西~東西~」「隅から隅まで、ずいーっとお願い」口上の述べ始める。パチンコ屋であったりスーパーマーケットであったり新装開店、新規開店を宣伝している。中にはビラを配ったり、ちり紙を配ったりすることもあって僕は子どもの頃チンドン屋を見つけると後から楽団についていった。チンドン屋の演奏する軍歌や「四丁目」「タケス」など無声映画で使われた誰もが知る曲を少し調子の外れた演奏で練り歩く姿がおかしい。ついつい踊り出してしまっても時々、つっかえて動きがギクシャクしてしまうようなあの音色は他の国で聞いたことがない。日本人が持っている特別のリズム感なのではないかしらと思う。

カンクンきっての尺八演奏家は、毎日決まって練習を繰り返すのでえらい。今日はギターを練習していた。昭和の歌謡曲中心の彼のレパートリーはテラスで聞いていると滑稽で調子が狂ってしまう。以前あまりにうるさいので宿から追い出されてしまったが、反省して戻ってきたのでオヤジの情けでここにおかしてもらっている。オヤジが僕の前に来てどうもあの演奏を聴いていると調子が狂って仕方がない、なんなんであろうかと言う。僕は突如チンドン屋のメロディーが頭の中に流れて来てあ〜と納得してしまった。

演奏家の演奏はチンドン屋のそれなんだ。きっと彼は日本人なのだ。だから独特のリズム感を長年メキシコに暮らしていても忘れることなくそれが正しいと信じて演奏してきたのだ。ホテル人は調子が外れているとは思わずにそのリズム感に日本を感じたのだ。だから彼は首にならずに今日まで演奏家として続けてこれたのだと悟る。最近耳が悪くなり、やたらと大きな音を出し始めているのでそろそろ家を買って移れと言われている演奏家。彼は自分のリズム感に気がついているのであろうか。

TOEFLの学校へ行きたい

オヤジの息子ヤスオ。先日、オヤジのところへ電話をかけてきた。就職に必要なTOEFLの点数が取れなかった。勉強するからTOEFLの学校へ行かしてくれ。と言う内容。オヤジはいきなりブチ切れて試験の点が悪いのはお前が勉強をしないからだ。学校へ行っても点数はあがらん。参考書を買って練習しろ。自分で問題を解いて練習しろ馬鹿め。と言って電話をきってしまった。ヤスオは英語が話せるがテストはできないらしい。オヤジはテストで点を取るには、練習が必要だ。テクニックを身につけなければTOEFLでいい点数を取るこなんかできない。学校に行ったって勉強しないで遊んでばかりいるからダメだ。と言う。

メキシコには参考書があるのかと聞くと急にしんみりとなって、ない。と答える。続けて日本なら腐るほどあるのに奴には読めない。それが悲しいと言う。それでは携帯のアプリがあるではないかと言うとヤスオやiPhoneでないからダメだと言う。僕はアンドロイドでもアプリはある。勉強はできるので大丈夫だと慰めてやると。ヤスオの住んでいるところは昼間暑いから夜になると悪い友達がやってきて飲みに誘うのだ、ヤスオは誘惑に負けて毎晩飲み歩くから勉強しないのだと嘆いている。若い時はそんなものだ、俺らだって若い時もっと勉強の大切さがわかっていたら今頃ここではなく大使館の執務室でこうした話をしていたはずだ。若い時にはわからないことがあっていいのだと話す。

いきなり怒鳴りつけられたヤスオはきっとがっかりしたであろう。お調子者ではあるけれど気の優しさがにじみ出る青年ヤスオ。英語を話せばとても堪能であるのにテストが苦手なのは日本人とは正反対。そんな彼らにも悩みがあるのだと知ってうししとなって喜んでしまった。

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