ホテルの枕にだって負けやしない

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むかしむかしの中国の本「張儀列伝」に次のように書かれています。

「無楚韓之患、則大王高枕而臥、国必無憂矣」
「枕を高くして寝る」の語源となった一節です。

うざい楚と韓がいなければ、王さん枕を高くして寝れるし、国も心配ないんだけどなぁとつい言ってしまった本音が記録されています。争いの絶えなかったこの時代。王さんの兵隊は、寝るときもパジャマに着替えられず、いつでも敵の接近がわかるように地面に耳をつけて寝ていました。熟睡も出来ずついつい「こんな心配がなければ地面から耳を離して枕をが使えるのになぁ」とグチってしまったのでしょう。「枕を高くして眠る」転じて安心できるという意味で使われるようになりました。

僕はブナ林の中、尾根伝いに続くトレイルを歩いていた。道が曲がり少し窪地になった場所に入った時だった。毛が逆立つ程強烈な臭いで足が止ってしまった。覚えのある臭いの主はすぐ近くにいるとわかった。僕は固まったまま身動きができなかった。窪地の上は笹薮に覆われていて何も見えなけれどそこにいることは確かだった。ほんの5m程先に行けば窪地から出られる。走り出したい衝動を抑えて様子をうかがった。林中が静まり返り心臓の音だけがドクンドクンと聞こえた。意を決してソロリと一歩を踏み出した瞬間、バサバサバサと笹が揺れて真っ黒な固まりが逃げて行くのが見えた。僕は硬直してしまい、行方を目で追うのが精一杯だった。

夕方、ひらけた山の肩にテントを張った。街の明かりが僕を少し安心させてくれた。一旦は眠りについた僕が物音に気がついたのは真夜中だった。タッタッタッタ!テントの外を歩く音に目が覚めた。”すぐそこにいる”フライシートのすぐ向こうでナニかがこちらの様子をうかがっていた。昼間の出来事が脳裏に蘇った。ジッとお互い様子をうかがう。僕の頭はすでに覚醒していつでも飛び起きられる状態になっていた。向こう側でもこちらを察知したのか後ずさりしている。真っ暗闇の中しばらくテント越しのにらみ合いが続いた。テントの外にいるヤツは、後ずさりする音からそんなに大きくはないとわかった。よかった熊じゃない。でももし小熊だったらまずい、どうしよう。僕はライトを片手でまさぐり手に持った。点けたい衝動を抑えてジッと息を殺し続けた。テントを張ったときにヤツの獣道を塞いでしまったのかもしれないと不安になった。頭の向きを変えた時、枕代わりの袋がこすれる音が響いた。同時にテントの外のヤツも飛び退いたのがわかる。その音で熊でないことがわかりホッとした。ヤツはしばらく動かなかったがあきらめたのか、来た方向へ去っていく音を聞いて僕は跳ね起きた。テントのジッパーを開け「悪かったなぁ一晩だけ泊めさせてくれよー」と暗闇に向かって謝った。

テントで泊まるようになってしばらくは熟睡することへの抵抗というか、なにかあればすぐに起きられるようにと身構えていました。とても枕を高くしてなどとは思わなかったし、まして軽量化を考えれば枕など持っていくはずもありません。ナイロン製の寝袋の袋に着替えをつめて代用です。でもカサカサと不快な音を立てるのが嫌でした。タオルなどで巻いたりしても朝方にはすっかりどこかに弾け飛んでしまい、ガサゴソと耳障りな音に嫌気がさして夜明けと同時にテントから這い出してしまうのが常でした。

そんな僕が四国一周自転車の旅で使用したのが「NEMO Fillo」です。この枕、アウトドアで使用するにはもったいない程の寝心地です。低反発ウレタンとインフレータブル式のミックスで付属のバンジーコードを使用すれば衣類などで高さ調節が出来る仕組み。生地もマイクロファイバーで心地よく不快な音もありません。しかもカバーは取り外して洗濯も出来ます。少し価格は気になりましたが、青木女史が潤んだ瞳で「コレですよコレ、極上ですよ。ウフフフ」となにやらそっとつぶやくのでドキリとしながらも眉をツバで濡らしつつ購入してみました。

その寝心地は・・・・「あと5分眠らせてくれー」「野宿で二度寝しちゃったよ」「やばっ、人が歩いてるじゃん」と惨憺たるダメ人間に僕を変えてしまう程の威力を発揮してくれました。空気の入れ加減で固さを調節出来るし、バンジーコードに衣類を挟んでうつぶせ時のクッション代わり、寝苦しい夜もロックアイスを挟めば氷枕にと大活躍してくれました。

このコンフォタブルな枕に野宿野郎の編集をされている加藤さんの口癖を真似て「スバラシイまくら」の称号を与えてしまいました。でもチョットだけ気になることが・・・枕を高くして眠った王さんの国がどうなってしまったのか?今の世界地図にはあの国の名前が見当たらないんです。人が一番怖いと言われる海外で枕を高くして眠ってしまうのは少しばかり気が引けますが、この枕にはその価値があります。なにか他に対策を考えなくてはなりません。

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