バカで自由で愉快な友達

真夜中のスケートボード

IMG_0976静まり返った公園にコトコト、カタカタとタイヤの音が響きます。深夜のスケートボードパークで遊ぶ50歳のおっさん二人は汗びっしょりになりながら何度もスロープを下ります。ブレイクは爪先から血を流し、僕は手のひらがズキズキと痛みます。さっき転んだときに思いっきり打ち付けてしまったのです。それでもスロープを斜めに横切るときドキドキはまるで子供に戻れたかのようです。もっとも側から見ればノロノロと滑る二人のおっさんが奇声を張り上げて喜んでいる姿は不気味に見えて誰も近寄りたくなかったとは思いますが。

親友のブレイクは、僕を楽しませようとしてくれます。それはよくわかっているのです。彼は末っ子で負けず嫌い。僕の面倒をいつも見てくれるのはいいのです。でも典型的なアメリカ人の彼はいつも暴走するのです。僕は次の旅の調べごとがあるのでついついパソコンの前に座りっぱなしの日が続きます。それがブレイクの目には退屈しているようにうつってしまうらしいのです。”ヘイ、ヒデキ今日はどうする?”と聞いてきたときは要注意です。ブレイクが暴走しかけているサインです。そんなとき僕は彼の提案を受け入れて一緒に出かけるのです。

夕方から飲みだしていい感じになってくると彼はきまって言い出します。”どこかに出かけたいだろ、どこに行きたいんだ、ビーチに行くかと”何度断っても諦めません。”スケートボードなら行くよ”と冗談で言うと彼は途端にキラキラと上機嫌になり、そそくさと準備を始めるではありませんか。僕は内心しまったと思いながらどうせそこらの道を行ったり来たりすれば気がすむだろうとタカをくくっていました。ところが彼が向かったのはスケートボードパーク。コンクリで作られたプールの壁がスロープになっていたりジャンプ台が付いている専用の公園です。昼間は地元の子供たちや若者が腕を競いあっている公園です。

僕はマジかよと思いましたが一度言い出したら聞かない彼の性格では今更何を言っても無駄でした。車の往来も少なくなった歩道をカタンコトンとスケートボードに乗っていきます。途中の坂道にきたところ彼はでレースをしようと言い出しました。”キタよ”と僕はげんなりします。サーフィンやスケートボードが得意な彼に僕が敵うはずもないのですが、彼は上機嫌です。よろけたりこけたりしている僕を見て彼の笑顔はますます大きくなっていきます。”単純なやつだなぁー”と思いながらも久しぶりに乗るスケートボードの感触が楽しくなってきました。

公園の門は閉まっていました。僕らは柵の隙間から忍びこみます。シンと静まり返ったプールの底におりたとき僕らは10代のガキに戻っていました。出来ないことなど何もないかのように夢中になって遊びます。暗がりに夜目は効かず、体もこわばり、スピードにもついていけません。何度も何度も転びながらもスロープの壁を横切れたときの喜びときたらいくらお金を払おうとも味わうことのできないものでした。

びっしょり濡れたシャツのままバーに入っていくとバーテンの女性が”あんたたち何してきたの?”と聞きました。ブレイクは得意そうに”スケボーで遊んできたんだ、俺らは50だぜ”と得意満面に自慢しています。そしてビールをグビリと飲んで足が痛いと泣いています。”きっと折れてる”と泣き言を言う彼はまだ少年のような顔をしていました。

翌日、遊びすぎて疲れて昼寝をしていた僕にブレイクは”ヒデキ、なんでお前は疲れているんだ、退屈なのか?”と平気な顔で言ってくるのです。まったくアメリカのバカさ加減にあきれましたが僕はとても満たされた気分になりました。
ステーキが食べたいだろ

夕方、ダニーが遊びにきました。”喉が渇いただろ”と言いながら勝手に冷蔵庫からビールをとって飲みだします。僕は”あぁー、今夜も最悪でサイコーな夜の始まりだ”と直感しました。さっき買ってきたばかりのビールがあっという間に消えていきます。そしてダニーが言うのです”ヒデキ、ビールを飲みに行こう!”。時計を見ると6時です。僕は少しお腹が空いていたので飲みに行く前に何か食べておこうと”タコスを買ってくる”と言うとダニーも”俺も食べる”と言います。ブレイクにも聞かないわけにはいかないので”何にする”と聞くと”ヒデキ、ステーキが食いたいだろ”とまたしても暴走が始まりました。僕はタコスでいいと言い張りましたがダニーまでブレイクに同調しています。買い出しに行こうと二人が話している横で僕は最悪の始まりを予感しました。二人はTボーンだリブアイだとどのステーキにするかで口論を始めました。案の定、僕に”お前はどっちがいいんだお前が決めろ”と話を振ってきます。僕がステーキのことを知らないと見たブレイクは僕にステーキの説明を始める始末。僕は何も知らない可哀想な日本人になっています。”あー早く決まってくれ”と願いながらとりあえずスーパーに行こうと言いました。

車の中で今度はサイドディッシュについて何にするか話し合い始めた二人、ここでもポテト派のブレイクとライス派のダニーの意見が衝突します、そして”お前はどっちだ”と言うのです。どちらでもいいと答えると今度は”見ろ、奴はまるで女だ”と言っています。僕もカチンときて”お前らはガキだ”と言い返すと車内は汚い言葉のオンパレード、酷い有様です。

スーパーで肉を選びます。プレミアムじゃないとダメだと言い張るブレイクが勝手に一番高い肉を注文します。ダニーはそれを受け取り値段を確認すると”なんてこった45ドルだぞ”と言って隣の陳列棚を見て安い肉を見ています。ブレイクはもう遅いといいながら満足げです。ダニーが昔のガールフレンドのお姉さんを見つけて話し始めました。僕らはその隙にサイドディッシュのポテトとマッシュルームを買います。戻ってきたダニーはまだブツブツと文句を言っています。帰りの車中でもポテトににはバターにするかサワークリームにするかで揉め出しました。互いに全否定し合っているのに全然険悪にならないのがアメリカ人のすごいところです。自分の意見をきちんと伝えることを大切にする風土があるのです。僕はちょっと二人がうらやましくなりましたが、口の悪さには閉口します。

家に戻るとブレイクはポテトを銀紙でくるみトースターに入れます。それを見ていたダニーが”オーブンだろ?オーブンに入れろ”と騒いでいます。あまりのバカ騒ぎにあきれた僕が彼らを写真に撮ると”お前のブログに書くなよな”と用心しています。まったくおかしな二人です。たった3枚の肉を焼くのに庭のBBQコンロに火を入れてポテトの時間に合わせて焼くからと意気込んでいます。度々トースターの様子を見にきては文句を言う二人、互いに小声で”見ろヒデキ、奴がトースターなんか使うから1時間経っても焼けてないだろ。なんで奴はオーブンを使わないんだ”とダニーが言ってきたかと思えば今度は”この方がうまく焼けるんだ、ダニーは知らないんだ”とブレイクがいいに来ます。

すったもんだの末ステーキが焼きあがったのは11時をすぎていました。やっとこ夕食にありつけました。落ち着いたと思った矢先、ダニーが思い出したように飲みに行こうと言い出しました。さっきスーパーで昔の彼女を近くのバーに来るように言ってくれと頼んだんだと言っています。バーでいくら待っても元カノは来るはずもありません。店主に追い出されるように僕らは帰りました。店にいる間も書けないようなことばかりでしたが、この日僕を一番驚かせたのは帰宅してからでした。

ダニーがニヤニヤしながらメールを見ています”ヒデキ、ほら見ろ彼女からメールだ”と言って読み上げています。彼女の恨みつらみとあなたはケツの穴よと読みながらも、ダニーは”まだ彼女は俺のことが好きなんだ、今度は連れて帰ってやろう”と言って満足げにしています。”ヒデキ、俺らの愛は本物だったんだ、俺がちょっと浮気しちゃったけど、今でも彼女は俺のことがスキなんだ、わかるだろ”と言うのです。どんな育ち方をすればこういう思考回路が出来上がるのか?物事をいい方に捉える心の強さと勘違いはどうしたら手に入れられるのか僕は知りたくなりました。それを聞こうとダニーを見ると彼はすでに眠りこけていました。

ブレイクだけでも大変なのにダニーが加わると収拾がつきません。でもこの二人と一緒に遊んでいるととても楽しいのです。彼らのように感情を思いっきり出せたらどんなにかいいでしょう。人と比べたくないと言っておきながらなんですが、彼らの楽しみ方は正直うらやましく、真似をしたいと思います。「自分探しの旅」という意味がこれまでわかりませんでした。一体みんなは何を探しているのだろうと思っていました。ありのままの自分をさらけ出すことが難しい日本を出て9ヶ月、いまだに僕は自分がわかっていません。

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