よろず走り書き5

床屋

床屋へ行かないとと思い、ウイスラーから下ったスコーミッシュという町で散髪屋を探した。
「いらっしゃい、今日はバイクに乗るには絶好の日ね、どんな風に今日は切るの」
「とっても短くして」「ここは1ミリ,上は3ミリで」
「わかったわ」
と言って彼女は櫛を消毒し、はさみを消毒し、最後に丁寧に自分の手を洗った。次にブラシでバリカンを丁寧に掃除しから散髪が始まった。彼女は
「どこから来たの」
「日本です」
「あらかっこいいわね、私も行ってみたいわ」とお世辞のように言った。
「どこかに行ったことがあるのですか?」
「ないわ、まずはパスポートを取らなきゃ」とおどけている
「どうしてここにいるの?」
「ウイスラーに滞在しています。世界一周の途中で知人の家に泊まっているのです」「この町のことも好きですよ」
「えぇ、この町は確かにいい町よ。あなた羨ましいわね」「いつから旅しているの?」
「2ヶ月前からです。アラスカに行ってきました」「これからアメリカに行くのです」
「あら、いいわねー。アラスカはどうだった?
「何もかにもが日本とは違いました。全てが大きくて、とても寒かったです」
「アメリカはいつ行くの?」
「明日です」「スコーミッシュの話を聞かせてください」
「この町ができたのは125年位前、木材の町として栄えたのよ」「バンクーバーに木材を随分と運んだの。でも今はね、きっとまた木材が良くなる日が来るわ。だってこの辺にはとってもいいシャーウッドの森があるから」「あなたもここへ移動してきたら、旅が終わった後」
「そうですね、考えてみる価値がありますね」「昨日の晩、たくさんの人を見ましたが何かあったのですか?」
「音楽祭があったのよ」
「有名な人はきたのですか」
「あんまりね、でも何人かは若者に人気のあるミュージシャンなのよ。あなた聞いたことある?」「私たちにはちょっとうるさいけどね」と言って彼女はおかしそうに笑った。
「いいえ残念ながら」
「この町は確かにいい町よ、私は30年住んでいるの」「あなたは日本のどこ?」
「僕は富士山の近くに住んでいました」
「いいわね」「私もいつか日本に行ったら富士山を見てみたいわ」「さぁ、できたわよ」「これで6500キロは髪を切らなくていいわ」
「ありがとう、気に入りました」「いくらですか?」
「20ドルでいいわ、良い旅を、それと気をつけてね」

料金表を見ると25ドルと書いてあった。僕はチップを渡そうとしたが彼女は「それじゃぁ、おまけしてあげた意味がないわ。今度戻ってきたときに弾んでちょうだいね」と言ってバイバイと手を振った。

乞食と後悔
ガソリンスタンドで給油し終えたとき、ひょいとみすぼらしい男が現れた。手には1ドルコイン二つを持っている。それを見せながら「サー、少しあなたがくれれば僕は夕食を食べることができるんですけれど」と唐突に言ってきた。僕はホームレスだと気がついたがとっさに出た言葉は「ごめんコイン持っていないんだ」だった。彼はすぐに諦めた様子で踵を返してしまった。嘘だった僕のポケットにはさっきコーヒーを飲んだときのお釣りが少し入っていた。これまでの癖でつい口から出てしまった言葉に後悔した。僕はポケットに手を入れると小銭を確認した。3ドル弱のお金が入っていた。僕はそれを握りしめて今しがたいなくなった乞食を探した。すでに彼はいなかった。広いガソリンスタンドを見渡したがどこにも彼の姿はなかった。僕は激しく後悔して彼を探したが煙に巻かれたかのように彼を見つけることはできなかった。
なんでちょっとした親切をしなかったのか激しく悔やんだ。僕はこの旅で多くの人に助けられてきた。その中にはホームレスもいたのに、なんの恩返しをすることなくこれまで来てしまった。なぜすぐに渡してあがられなかったのかと重い気持ちがのしかかる。
たったこれだけの場面なのに僕はなぜか強く印象に残ってしまった。もし次回があるなら迷わずにポケットのコインを差し出そうと決めた。

さようならカナダ
2ヶ月以上にわたり滞在したカナダ。当初こんなに長くいるはずではなかったのに気がついてみれば多くの経験をこの国で積むことができました。いきなりのトラブル多発から始まったこの国。カナダ人のいい加減さ、おっとりした感じ、非行率さなどが目につきました。でも優しく、親切なことも多かったのが印象に残りました。豊かな自然と共存しながら生きているこの国の懐の深さのようなものなのでしょう。
ウイスラーで出会った日本人は強烈なキャラクターでしたが、どの人もとてもいい方ばかりです。野口さんとの出会いは忘れることができないものでした。彼は多くのことを僕に教えてくれました。彼の助けなしにはもっと僕は辛い目に遭っていたでしょう。岩登り、ハイキング、観光とプロのガイドらしく楽しませてくれる彼に心から感謝しています。今晩が野口さんと一緒に摂る食事は最後となりました。カレーライスを作り、ワインを飲みながらいつもと同じように会話を楽しみました。僕はとても寂しい気持ちになりましたが、これが旅人の定めなのでしょう。
最後にオーロラを見たいと外に出ましたが、残念ながら叶うことはありませんでした。でも空には満天の星空がありました。真っ暗な場所まで行くと電灯の近くでは見ることのできない星空が広がっていました。北斗七星がいつもの何倍にも大きく見えます。天の川もはっきりと見ることができます。僕は首が痛くなるまで空を見上げていました。さよならカナダ。

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